揺れる心
やっとできました
小太刀は、生徒会室にいた。先日の事件について詳しく聞くためだ。ドアをノックし、泣きに入る。
「やあ、待っていたよ小太刀君。そこに座りたまえ。」
するとすぐに、聖鵬学園生徒会長にしてこの土地の管理を一任された呪師、白百合紅羽が声をかけてきた。小太刀は紅羽の言葉に従い、ソファーに腰を下ろす。
「じゃ、聞かせてもらいますよ。いったい何があったのかを。」
「ふむ、すでに君も察しているだろうが、先日学園に侵入した不審者は呪師だ。」
「ええ、それはわかってます。」
「そいつがまた厄介な奴でな、暗満常夜。君も名前くらいは知っているだろう?」
「“呪師殺し”ですか。また面倒な。」
「やはり知っていたか。そして奴の目的は恐らく・・・・・・」
「俺、ですか。」
「気づいていたのか。」
「それとなくですけどね。で、会長は暗満とせんとうになったわけですね?」
「その通りだ、不覚にも取り逃がしてしまったがな。あとは君も知っての通りだ。」
「そういうことでしたか・・・・・・」
生徒会室を沈黙が支配する、それを破ったのは紅羽だった。
「小太刀君、わかっているとは思うが言わせてもらう。」
紅羽は真剣な表情で厳かに告げる。
「何です?」
小太刀は投げやりに、まるでそれから先を聞きたくないかのような態度で答える。
「君が呪師と関わりたくないことは承知している。」
「・・・・・・ろ」
「その意志はできる限り尊重したい。」
「・・・・・・めろ」
「しかし、このような事態に陥ってしまった以上君も覚悟を・・・・・・」
「やめろ!!」
小太刀は殺気をぶつけ、ヒステリックに叫ぶ。しかし、紅羽はひかなかった。
「いいや、言わせてもらう。覚悟を決めろ、影森小太刀!!」
「-!」
余りの迫力に、小太刀は水をかけられたかのように冷静さを取り戻し、押し黙った。
「君が私を助けてくれたことには本当に感謝している。それに嘘偽りはない。しかし小太刀君、関わりたくないというのならなぜ私を助けた?なぜ避難しなかった?」
「それは・・・・・・日和や鍔鳴を、みんなを巻き込みたくなかったから、みんなを守りたかったから。」
「ならば覚悟を決めろ、戦う覚悟を。もちろん私は全力を尽くしてこの町の人々を守る、当然君のこともだ。しかし先日の事件のように私は暗満に敗れ、今度こそ命を落とすかもしれない。その時誰が君やほかの皆を守る?それは小太刀君、君しかいない。いつまでも狐孤殿におんぶ抱っこというわけにはいかないだろう?」
「時間を、少し時間をください。会長がおっしゃることはもっともです。頭ではわかってるんですけど、気持ちの整理が付かないんです。」
「そうか、わかった。明日、またここに来てくれ。そして君の答えを聞かせてほしい。」
「わかりました。」
小太刀はスッと立ち上がり、生徒会室を後にしようとした。ああ、と紅羽が小太刀を呼び止めた。
「どうしたんですか?まだ何か?」
小太刀は怪訝に思い、紅羽に尋ねる。紅羽の頬は、心なしか赤くなっていた。
「いや、その、なんだ。先日の礼のことなんだが・・・・・・・」
「礼?」
妙に歯切れの悪い紅羽の物言いに小太刀は首をかしげる。
「だから、その、く、口づけのことだ!!」
「-!!」
先日の事件がひとまずの終息を見せたところで、紅羽は命を助けてくれたお礼として小太刀の頬に口づけ、要するにキスをしていた。そのことを思い出し、小太刀も顔を赤くした。
「その、あ、あの時は私も混乱していてだな。あれは単に感謝の気持ちを伝えたかっただけであって、特別な感情があったわけではないのだ。ご、誤解してるといけないからな。一応言っておく。」
「は、はい!もちろんわかってます。」
「そ、そうか、ならいいんだ。すまないな、時間を取らせてしまった。」
「いいえ、気にしないでください。えっと、失礼しました。」
小太刀は今度こそ生徒会室を後にした。
「ふぅ」
生徒会室を出た途端、赤かった顔は一瞬で元に戻り小太刀は紅羽に言われたことについて考えた。
(ご主人様、大丈夫ですか?)
そんな小太刀を心配して、狐孤が語り掛けてくる。
(ああ、大丈夫だよ。すまん、心配かけた。)
(いえ、それはいいのですが。ご主人様、本気ですか?)
(正直、まだ気持ちはぐらついてる。でも、会長が言った通りなんだ。)
(ご主人様、紅羽様はああ仰いましたが私は・・・・・・)
(いや、いつまでもお前ばかりに頼ってはいられない。自分でもわかってたはずなんだ、いつか、こうゆう日が来るって。)
(ご主人様・・・・・・)
(大丈夫だよ、狐孤。遅かれ早かれこうなってたんだ、いい機会なのかもしれない。)
(そうですか、ご主人様がそうおっしゃるのであれば私はお止めいたしません。しかしご主人様、貴方様が戦われるというのであれば私も全力であなた様を助け、お守りいたします。これはゆるぎない私の意志です。)
(ありがとう、狐孤。その時はよろしく頼む。)
(ええ、頼まれました。ささっ早く屋上へ参りましょう。日和様達がお待ちです。)
(ああ、そうだな。)
小太刀は、大切な人たちの待つ屋上へと急いだ。
お待たせして申し訳ありません。十五話でした。
第二章はテンポよく行くことを目標に頑張りたいと思います。
感想などいただけたら幸いです。




