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神具の呪師  作者: fukuchan
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遠き日の追憶~side小太刀~

今回もプロローグです。タイトルにもある通り小太刀視点です。

俺があいつと出会ったのは5歳のころだった。

妹が風邪をこじらせて入院したことがきっかけだった。

心配だった、本当に心配だった。

でも心のどこかでは、大丈夫お医者さんが治してくれる。そう思っていた。

しかし、その幻想はあっさり打ち砕かれてしまった。

その日は、いつものようにお見舞いに来ていた。

妹の病室から出ると、医者が深刻な顔をして、両親を談話室へ連れて行った。

親父から、おまえはここで待ってなさい。と言われ、ロビーの椅子に一人で座っていた。

言いつけを破るつもりはなかった。

でも、一人でいることに不安を感じてしまった。

不安はやがて恐怖になった。

居てもたってもいられなくなり、両親がいる談話室へ向かった。

中には入らない、外で待ってるだけだから。そう言い聞かせて、談話室を目指した。

談話室についた俺は扉の前で両親を待った。

しかし、どうしても両親の顔を一目見たくなって、談話室の扉を少しだけ開けた。

目に飛び込んできたのは、両親が肩を寄せ合ってすすり泣いている姿だった。

そして、医者の声が聞こえてきた。残念ですが、娘さんは・・・・・・

俺の中で何かが壊れていくようだった。

妹が死んでしまう。頼りにしていた医者があきらめてしまった。

気が付けば、俺は走り出していた。

途中で何度か呼び止められたが、無視した。

医者が治せない、なら自分が何とかしなくては。

そんな思いが体中を駆け巡っていた。

俺は病院の裏手にある森に入っていった。

薬草を探そうとしたのだ。

しかし、五歳の子供に薬草の見分けなど付くはずもなく見つけることはできなかった。

それでも、俺はあきらめなかった。

無我夢中になって薬草を探した。

でも、しょせんは子供のあがき、体力はすぐに尽きてしまった。

仕方なく、少し休憩しようと顔を上げた。

そして、あいつと出会った。

初めてあいつの姿を見たとき、俺は見惚れてしまった。

あいつは綺麗だった、この世で一番綺麗なんじゃないだろうか、そう思えるほど綺麗だった。

でも、あいつはひどくは儚げで、悲しそうな顔をしていた。

だから俺は話しかけずにはいられなかった。

俺が話しかけると、あいつは少し驚いたように俺を見つめ、涙を流した。

俺は聞いた。

どうしたの?どこか痛いの?

あいつは言った。

違いますよ、貴方にあえてうれしいから泣いていたんです。

なぜだか嬉しくなって、照れてしまった。

するとあいつは、俺を抱きしめてきた。

驚きはしたが、不快ではなかった。

まるで、お袋に抱きしめられてるみたいだった。

俺は安心して、緊張の糸が切れてしまい、大泣きした。

あいつはそんな俺をやさしく抱き留めていてくれた。

俺が少し落ち着くと、あいつは聞き返してきた。

どうしたの?

俺は、妹のことを話した。

するとあいつは近くにあった草を手に取り、一撫でしてから俺に手渡した。

これを妹君に飲ませて差しあげなさい。

あいつはそう言った。

手渡された草からはすごい力を感じた。

これなら妹を助けられる。俺はそう思った。

俺は礼を言ってその場を去った。

病院に戻ると、両親が慌てておれに駆け寄ってきた。

言いつけを破ったことを思い出し、叱られると思った。

でも、そうじゃなかった。

親父もお袋も涙を流しながら俺を抱きしめた。

俺も泣いてしまった。

ひとしきり泣いた後、俺は両親にあいつにもらった草を見せた。

両親は驚いて、目を見開いていた。

これをどこで?

親父が聞いてきた。

裏の森で綺麗なお姉ちゃんにもらったの、早く彼方に飲ませてあげて。

俺はそう答えた。

親父は手の平にある草を見て、呆然としていたが、我に返って妹の病室へ向かった。

草をすりつぶし、妹に飲ませた。

すると、苦しそうだった表情が穏やかなものになり、妹は目を覚ました。

数日後、妹は退院した。

俺はあいつに何かお礼がしたくて、あの森に出かけた。

この間と同じ場所で、あいつに会った。

俺はあいつに、お礼に何かしてほしいことはないかと尋ねた。

何もない、ただ、時々こうして会いに来てくれればいい。

あいつはそう答えた。

俺は納得しなかった。だから、また尋ねた。

ならば、名前を教えてくれないか。

あいつは答えた。

だから、俺は名前を教え、あいつに名前を聞き返した。

するとあいつは何かを思い出したような顔をして、ポツリとつぶやいた。

名前がほしい。

俺は必死に名前を考えた。

そして・・・・・・

「狐みたいな耳をしてるから、狐孤(ここ)。お姉ちゃんは狐孤!」

俺がそう告げると、あいつは何か決意したような顔で、こういった。

「ありがとうございます、ご主人様。これからはずっと狐孤めがそばにいてお守りいたしますからね。」

親父とお袋は意外なほどすんなりと狐孤を受け入れてくれた。

それどころか。歓迎した。

お袋に至ってはであったその日のうちに意気投合し、仲良くなってしまった。

彼方も、すぐに狐孤になついた。

そのあともいろんなことがあった。

楽しいことも、悲しいことも・・・・・・。

親父とお袋が死んだとき、狐孤はずっと俺たち兄弟と一緒にいてくれた。

きっと、狐孤がいなかったら、俺は死んでいてたと思う。もちろん彼方も。

狐孤にはずっと、それこそ死ぬまで俺の傍にいてほしい。

俺はそう願っている。



「お兄ちゃん?どうしたのボーっとして。」

学園からの帰り道、昔を思い返していた俺に彼方が訪ねてきた。

「いや、何でもない。ちょっと昔のことを思い出してただけさ。」

「ふーん。そっか」

彼方は興味をなくしたのか、それ以上追及してこなかった。気が付くと、俺たちは家の前にいた。

「お帰りなさいませ、ご主人様、彼方様。」

「ただいまー、狐孤さん!」

「ああ、ただいま、狐孤。」

そして今も、あいつ、狐孤はおれの傍にいる。


なんとか早めに更新することができました。このまま行けたらいいのですが・・・・・・。

さて、今回でプロローグは終了です。もはや過去編になってましたけど(笑)

次回もできるだけ早く更新したいと思います。

感想などいただけたら幸いです。

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