遠き日の追憶~side狐孤~
お待たせしました!第二章開幕です。
今回はプロローグです。
なお、プロローグのみ一人称です、ご了承ください。
では、お楽しみください。
私はただの狐でした。どこにでもいる、何の変哲もないただの狐。
しかし、ある日を境に、私はただの狐でいられなくなりました。
その日はひどい嵐で、獲物を狩ることができませんでした。
しかし、飢えて飢えて仕方のなかった私は、無茶な狩りをせざるを得ませんでした。
自然は残酷でした。激しい雨は私から体温を奪い取り、激しい風は私から気力を奪っていきました。
ああ、私はここで死ぬのだ。そう思いました。
恐ろしいとは感じませんでした。弱かったから死ぬ。それだけのことでした。
ところが、私は死にませんでした。
何の因果か、私の隣には私と同じように力尽きた同朋が横たわっていました。
私はまだかすかに息がありましたが、隣の同朋は既に息絶えてえいました。
私は同朋の肉を食らいました。無我夢中で食らい続けました。
そして、私は生き延びました。
我に返った私は周りを見渡して、驚きました。
いつの間にか、全く知らない場所にいたのです。
そのとき私が感じたのは、恐怖でも、好奇心でもなく、安らぎでした。
そこは、とても心地よい場所でした。
暖かな光、果実を豊に実らせた木々、辺り一面に咲き乱れる花々。
そのすべてが美しく、神秘的でした。
私はこの心地よい場所で暮らすことにしました。
暮らしていくうちに、私は不思議なことに気が付きました。
飢えを感じなくなっていたのです。飢えだけではありません。のどの渇きも、疲労も感じなくなっていたのです。
不思議に思いましたが、嫌ではありませんでした。むしろ歓迎さえしました。
飢えじないということは飢えにおびえる必要がないということ。
疲れを感じないということは、いつまでも生きていられるということ。
そう、私は「死」というものから無縁の存在になったのでした。
いつしか私は狐の姿ではなく、人の姿をとるようになりました耳としっぽはそのままでしたが。
私は、自分が大きな力を持っていることに気が付きました。
それは、狐であったころから本能で漠然と感じていたものでした。
しかし、今はそれが何なのかはっきりと理解していたのです。
永い月日が過ぎました。
私は変わることなく、その場所にいました。
なんの不自由もありませんでした。しかし、私は退屈でした。
確かにここは心地よいところですが、私以外には生き物がいないかったのです。
迷いましたが、私はその場所を出ることにしました。
ここを出たい、そう念じると、私はどこかの山奥にいました。
足元を見てみると、小さな祠ありました。そこからは、あの場所の香りが漂ってきました。
どうやら私は、この祠中にいたようです。
私は改めて周りを見ました。
久しく感じていなかった生き物の気配がしました。
私は無性にうれしくなって辺りを探索しました。
小鳥、昆虫、鹿、そして狐。様々な生き物に出会いました。
私は彼らに触れようとしましたが、怖がられてしまったのか、みんな逃げていきました。
残念でしたが、あの祠の中の退屈さを思うと何千倍もましでした。
ある日私は、黒いもやもやした存在に出会いました。
それを見た瞬間、決して相容れることのできない敵であるとわかりました。
私は力を使い、それを消し去りました。
すると、近くで人の声がしました。
近寄ってみると、大人の男がひれ伏していました。
神様、神様、ありがとうございます。
男はそう言って何度も頭を下げていました。
私は幸せな気分になりました。
その気分を何度も味わいたくて、何度も人を助けました。
そのたびに人は私に感謝し、お礼を言ってくれました。
いつしか私は人々から「神様」とあがめられるようになりました。
私は幸せでした、今までで一番幸せでした。
しかし、いつの間にか人々は私のことを忘れ去っていました。
私はぽっかりと胸に穴が開いたようでした。
また、永い月日が過ぎました。
ぽっかりと空いた穴が埋まることはありませんでした。
その穴から、力が抜けていくようでした。いえ、本当に力が抜けていたのでしょう。
私は自分という存在が消えつつあることを感じました。
抵抗はしませんでした、むしろせいせいしていました。
そんなときでした。
お姉ちゃん、お姉ちゃんという声が聞こえてきました。
下を見ると、小さな男の子がいました。
どうして泣いてるの?どこか痛いの?
私は、自分が涙を流していることに気が付きました。
でも、悲しくありませんでした。それどころか、永い間埋まることのなかった穴がいつのまにか埋まっていました。
違いますよ、貴方にあえてうれしいから泣いていたんです。
私は男の子に話しかけました。
男の子は照れたように笑いました。
愛しい、ただただ、愛しい。
気が付くと、私は男の子を抱きしめていました。
すると男の子は泣き出してしまいました。
どうしたの?
今度は私が男の子に尋ねました。
妹が病気で死んでしまいそうなの。
男の子は答えました。
私は何も言わず、近くにあった薬草を手に取り、力を込めて男の子に手渡しました。
男の子は怪訝そうな顔をして、受け取りました。
それを妹君に飲ませて差し上げなさい。
そう告げると、男の子はお礼を言って立ち去りました。
お礼を言われるのはいつぶりのことだったでしょうか。
私は久しく味わっていなかった気持ちを感じていました。
それから数日が経ったころでした、男の子がまた会いに来てくれました。
私は嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。
聞けば薬草を飲ませた途端、妹君の病はたちどころに治ってしまったそうです。
今日はそのお礼をしに来てくれたそうです。
何かしてほしいことはないか、男の子はそう聞いてきました。
何もない、ただ、時々こうして会いに来てくれればいい。
そう答えましたが、男の子は納得しなかったようです。
他にはないのか。そう尋ねてきました。
ならば、名前を教えてくれないか。そう答えました。
男の子は満面の笑みで答えました。
男の子は影森小太刀という名前でした。
男の子もとい小太刀君は私に名を聞いてきました。
私は自分に名がないことを思い出しました。
そして・・・・・・
名前がほしい。
そう小太刀君にいいました。
小太刀君は少し悩んで答えました。
「狐みたいな耳をしてるから、狐孤。お姉ちゃんは狐孤!」
まるで生まれた時からその名前だった。そう感じるほど、狐孤という名前は私の中に自然に入り込んできました。
それと同時に、この子を守らなければならない、この子のそばにいなくてはならない。
強くそう感じました。
だから私は言いました。
「ありがとうございます、ご主人様。これからはずっと狐孤めがそばにいてお守りいたしますからね。」
小太刀君いや、ご主人様は目を真ん丸に見開いて驚いていました。
そんなご主人様がいとおしく思えて、私は抱きしめました。
幸せでした。本当に幸せでした。
「おい、どうしたんだ?ぼーっとして。」
「何でもありませんよ、少し。昔のことを思い出していただけです。」
「-?変な奴だな、まあいいや。飯の支度できてるからさっさと来いよ。」
「はいはい、ただいま参りますよ。」
こんな幸せがいつまでも続いてほしい。
私はそう願っています。
いかがでしたか?
今回はいろいろとチャレンジしてみました。
一人称にしてみたり、雰囲気を出すために改行を多用してみたりしました。
ご意見、感想などいただけたら幸いです。




