第一章「(略)」 5
「さあさあそれではしばらくの間、この狂った物語にお付き合いくださいませ」
「は?」
「だから、君の妹が、東那ちゃんが、家で死んでるんだよ」
「……まじっすか」
一つため息を吐いて納東くんは言う。
「郷さんはまだそこにいんの?」
「いるよ、友達と一緒にね」
「そっか」
暫く間が空いた。
「じゃあさ、僕今からそっち行くし、待っててくんない?」
「おーけー」
頷いて、電話を切る。
「どした?」
と接穂。
「後輩に、連絡をとっててね」
「ふうん」
「西折錦くんっていう子」
反応がなかった。
「あれ、もしかして知らない?」
「……いや、まさかね」
考え込むような素振りで首を傾げる接穂。何か思い当たる節でもあるのだろうか。
「それにしても」
僕は言葉を紡いだ。
「なんでこんなことになっちゃったんだろうね」
接穂は何も答えなかった。
もちろん、東那ちゃんも何も答えなかった。
三十分ほどして、軽いノックの音。それから、ドアが小さな音を立てて開いた。
「やあ」
僕はそう言って、右手を挙げた。
「ん、よっす」
錦くん、いや西祈納東くんは応えるように軽く会釈する。長く伸ばした髪を束ね、ワイシャツの第一ボタンをはずしてる。東那ちゃんによく似たその顔がどんな表情をしているのかなんて。
僕は。
知らない。
「東那は?」
「リビングに、僕の友達が運んだよ」
「へー…って郷さんに友達っていたのかよっ」
心臓がえぐられたように痛んだ。どうしてくれる。いや、嘘だけどさ。
「じゃあ」
「うん、いってらっしゃい」
納東くんはそのまま中に入っていった。
僕も彼の後を追うように中に入った。
イラストは20分クオリティの落書き。郷哉と接穂。
Twitter @kagurazareinu