第一章「(略)」 4
「死ぬって何だろうね」
「終わるってこと」
「じゃあ、終わるって何?」
「死ぬってこと」
「それじゃあ、僕はもう終わってるかもね」
「ふうん」
「……」
プルルルと、携帯が震える。ワンコール目の途中で、「はい」という声。
人を待たせないのはいい心がけだ。こんな場合じゃなきゃ、僕は素直に感心していただろう。
「……もしもし?」
少し低めの声が携帯の向こうから響く。聞き覚えのある声だった。
「ええっと」
なんて言えばいいんだっけ。
まさか素直に「あなたの妹さんが殺されてますよ」とか「あなたの妹さんが死んでますよ」だなんて言うわけにもいかないし。
常識人としてそんなことはしない。
ああ。でも。
常識なんていう概念が僕には無いんだっけ。どうでもいい。
「西祈納東くん、だね?」
確認するように僕は言う。
「え?」
やや驚きを含んだ声で僕の後輩は応えた。
「……郷さん?」
「そうだよ」
西折錦くん。一歳年下の後輩。それが偽名だって気づいたのは一体いつのことだっただろう。もしかしたらただの勘だったかもしれないし。そんなのは僕にとっちゃ今更どうでもいいことだった。
「えっと、郷さんが僕に一体何の用?」
僕は声をひそめた。
「君に、伝えなきゃいけないことがあるんだ」
「……」
「君の妹が、東那ちゃんが」
「家で、死んでるんだけど」
結局そう言うことにした。
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