第一章「(略)」 3
「君は一体、」
「何が」
「したかったのかな?」
「東那ちゃんって確か接穂の一つ年下だっけ?」
「うん」
ってことはまだ十六歳か。
なんで死ななきゃいけなかったんだろう。
「何か、恨まれてたり、するのかな?」
「それは、多分ないと思うけど」
即答だった。
後輩が
死んだのが未だに
信じられていない。
そんな気がして。
「それに、東那はさ。誰かに恨まれるような…いや、違うね。誰かに恨まれたりできるような子じゃなかったし」
「恨まれたりできるような?」
「そう」
なんだろう。何かの英語訳を聞いているような気分になった。
無理やりつなげた感じの言葉。
まるで、彼女の今の心境を表しているかのようで。
切なくなった。
「東那ちゃんは、兄弟とかいたの?」
「あー、うん。兄が一人いるって。同い年の」
「双子、か」
「そ、すっげー仲がいいんだよなー」
彼は、妹が殺されたことを知っているのだろうか。
仲がいい兄妹。
彼の妹はもう、帰ってこない。
「あ、そういえば」
「……何?」
「お兄さんだっけ、彼に連絡しなくちゃ」
少女…東那ちゃんの死を、彼女の兄に伝える。
想像するだけで気が滅入る作業だ。骨が折れる。
面倒臭いというか、なんというか。
僕は人の痛みってやつがまったく分からないから、こういう場面にあった反応ができない。
空気が読めない。読むことが、できない。
「……」
さて、どうしようか。
東那ちゃんの兄と面識がありそうな接穂はあの通りで使い物になりそうにないし。
というか使い物にならないし。
て、ことは。
て、
ことは?
「僕が連絡するしかないのか……」
なんでこうなるんだろう。
僕は神に一体何かしただろうか?
溜息を一つ吐いて、僕は携帯をポケットから取り出した。
ガラパゴス仕様。つまりガラケー。
面倒臭い機能が無いから個人的にはかなり使いやすい。
「えっと、番号は何だっけ…?」
記憶してある電話番号を一つ一つ正確に押していく。
通話ボタンを押して、僕は携帯を耳に当てた。
接穂が首を傾げるのを横目で見ながら。
なんていうか、最悪。