序章という名の書き置き 3
接穂は首を傾げると、話を続ける。
「えっとな、その子に郷の話したら、会ってみたいって」
一体何を話したんだこの娘。
ろくな話はされてない気がする。
もう一度言おう。
一体何を話したんだこの娘。
「えっと、確かな」
「うん?」
「常に無表情で、必要最低限のことしか喋らない根暗でわっけわかんねーやつ。いっつもめんどくせぇこと考えてるし。優柔不断だし。って言った気がする」
「……」
一発殴ってもいいですか?いいんですよね?
さすがにこれは温厚な僕もちょっとばかし頭にくる発言だった。
「あ、でも一応褒めたんだぜ?」
彼女の発言は信用しないこととしよう。新しい教訓が僕の脳裏に深く刻まれる。
「なんて?」
「んー、そんな駄目なやつだけど、駄目駄目なやつだけど」
三回も駄目って言うな。
「でもって、男として本っ当に最低なやつだけど」
おい。
「でもまぁ、案外友達思いのいいやつだったりするんだぜ」
なんかいいこと言ってる。
訂正。
やっぱり少しは彼女の言うことを信用してあげよう。
もう一度、脳裏の辞書に情報というか教訓を上書き保存する僕。
彼女は言葉を続けてる。
「まぁ、すっごくたまにだけどなー。百年に一度ぐらいの軌跡かねー。いいやつってのはあたしの願いでいいやつであってほしいっつー意味なー。だから実は全然いいやつじゃないんだよなー。むしろ最悪最低」
ドスッ。
「うお、いってーな何すんだよっ」
「君の。言葉を。少しでも。信じた。僕が。馬鹿だったよ」
まったく何が褒め言葉だ。
僕はもう一度脳内情報の修正を試みる。
「で、その子はなんて?」
「ん?あー確かな」
接穂の言葉によると、彼女の後輩は、こう言ったらしい。
「へーぇ、先輩がそこまで言うとは…面白い人なんだね!是非お会いしてみたいな!」
だ、そうで。
今の話のどこをどう聞いたら面白い人なんて単語が出てくるんだろう。
大丈夫なのか、あの学校。色々と心配になってきた。