序章という名の書き置き 2
そして、30分。ほかに用事があるからと言って(嘘)帰ってしまおうか、と僕がベンチから腰を浮かしかけた時、
「思い出したーっ!!!」
と彼女は叫んだ。文字通り叫んだ。
……五月蝿い。君には人の目を気にすることができないのか、と言いたくなった。
言わなかったけど。
言っても無意味というか無駄というか。そんなことぐらいこれまでの付き合いにおいて嫌というほど知っている。
…なんか虚しくなってきた。まぁ、しょうがない。話を聞くこととするか。
「で、何?」
「あー。えっとさぁ、うちの後輩ちゃんが郷に会いたいってさ」
「うんうん……って……え?」
なんだろう。
僕は彼女の後輩に会いたいと思われる理由を一つも持って無いんだが。
無いはずなんだが。
無いにきまってる。
「えっと……まさか僕の知り合い……?」いやでも僕の知り合いはあの学園じゃ接穂ぐらいしかいない。
大体彼女がイレギュラーなだけで、普通はお嬢様学校の生徒とお近づきになれるはずもない。
「違う違う」
予想通りの返事が返ってきた。
「ふうん……。じゃあ僕の生き別れの妹とか?」なんとなくそう言ってみる。
「え……郷って生き別れの妹いんの?」
驚かれた。
冗談のつもりだったんだけど。
「そっかぁ……。そりゃ大変だな……。生き別れの妹ね……」
考え込まれてしまった。いやいや冗談だよ?冗談ですよ接穂さん?
「会えるといいね、妹さん」
朗らかな笑顔で言い切る接穂。……ぐあ。
「……」
今更嘘だとは言えず、なんとも言えない気持ちになる僕。
罪悪感が増していく。
「……話を、進めようか」
無理矢理話題を変えてみた。