序章という名の書き置き
何かを始めるにはまず何かを終わらせろ。
話はそれからだ。
なんていうか物語にはすべて始まりがあってそして終わりがあるみたいな、そんな固定概念に疑問を抱いたことはないだろうか。別にそんな固定観念というかステレオタイプな考えに難癖をつけるわけではないんだけれど、時たまそう思う。僕がひねくれているだけだって分かってるけど。
というわけで今からというには少々遅すぎるかもしれないけれど、なんて前置きはどうでもいいね。
それでは。
理論と理屈をさも理知的に並べ立てただけの。
くだらないくだらない物語を。
はじめようか。
その日は珍しく晴天だった。真っ青な空に白い雲。典型的な夏空。ただし今は11月。
いや、「珍しく」という言葉には語弊があるかもしれない。
言い換えよう。
その日は、僕の記憶の中には滅多にない晴天だった。
僕は一人、公園のベンチに腰掛けている。何をしてるのか、と思う方も多いようだから、説明しておくと。
友達を、待ってる。
それも、僕の数少ない友達。しかも同い年の女子。ただ、ここで、可愛らしい少女を想像してはいけない。
あ、いや。可愛いことには可愛いんだけど。
……。
それでは、自己紹介を。
僕の名前は端袿郷哉。私立高校の三年生で、現在17歳。
趣味なし特技なし得意科目なし。成績は中の上。帰宅部に所属してる。
で、僕が待ってる相手は、一応私立お嬢様高校の三年生でまぁ同い年なんだけど。
彼女は。
待ち合わせの時間を。
一時間過ぎてるのに。
まだ、来ない。
僕の貴重な時間はどこへ…。
そんなことを考えながら、一人待つ僕。
―公園のベンチに一人の男子高校生。空しい構図だ。
いったい何で僕はこんな目に遭ってるんだろう。
誰のせいなのかは言うまでもない。
彼女のせいだ。
そして、更に三時間後。
そろそろ帰ろうか、と僕が思い始めたちょうどその時に、彼女はやって来た。
いくらなんでも時間にルーズすぎる。
「うーっす!郷、待った?」
ここはセオリー通りにいくなら、「今来たところだよ」とでも答えたほうがいいようだけど。
僕は流石にそこまで優しくない。
まして四時間も待たされてるのだ。
「滅茶苦茶待った」
そう答えてやる。彼女はくははー、と笑った。
「まったく」
と僕は呟いた。
「もう少し反省してほしいよ」
「ん?何?」と首をかしげる彼女。
反省どころか、話を聞いてすらない。
なんというか……。うん。いっそ清々しい。
絶句する以外の行動をとれなかった僕のことを責める人はきっといないだろう。
そんな彼女の名前は藍植接穂。私立お嬢様学校、飾宮学園高等部現主席だ。
得意科目は全部で、苦手科目はなし。茶色がかった髪を肩で一まとめにしてくくっている。
黙っていればただの可愛いオンナノコ、
でも現実はそうそう甘くない。
「で、今日はなんの用かな」
彼女についてぐだぐだ言っても仕方ないので、とりあえず本題に入ってみる。
「えーっと。なんだっけ」
再び絶句。
こいつ、自分から僕のことを呼び出したくせに、
その上、人を四時間も待たせたくせに、
用事を忘れてた。
忘れやがってた。
「……」
「いや、マジでごめん。頑張って思い出すから」
「そうしてくれ」
じゃないと僕が困る。