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シュールナンセンス掌編集

不定形になろう

作者: 藍上央理

「不定形になろう」



 いつだったか、友人がプラカードにこう書いて、会社の前で一人でデモをした。

 『不定形になろう、われわれにはその権利がある』

 不定形とはなんぞや、当時、みんなが彼にたずねたものだ。

 アメーバーになることなのか、水になることなのか、それともゼリーになることなのか、意志をもてるのか、言葉はしゃべれるのか、他人と自分の区別はつくのか、恋愛はできるのか? 自分で自分の事を確定できるのか? 

 アメーバーではないが、それに近い。水でもないが温度によるだろう。ゼリーはメロン味が好みだ。意志をもつことはできないが、石をもつことはできる。言葉はそうだね、口をつければしゃべれるだろう。他人と自分の区別はつくが、境目がない。恋愛はできるけれど、男女の区別がない。自分で自分の確定? いまそれができていたら自分はこんなプラカードを書かない。

 会社の同僚はみんなばかにしたような顔をして去って行った。

 取り残された私を見つめて、友人は言う。

 「不定形になることに責任はもてない。各個の個性はなくなるし、個人ではないので、対処も大変だな。意志も意思もなくなるので動機が消滅する」

 「犯罪を犯すつもりなのか?」

 「不定形になるとそれもわからない。知らない所でとんでもないことが起きる、その程度のことだよ」

 友人はそれから一週間プラカードをもって会社の前に立ち続けた。

 二週間目から、他の同僚が出社しなくなった。一人、また一人と。

 雨の降る日は二、三人。連絡もなく行方不明になっていく。

 友人はプラカードをしまいこみ、何げない顔をして毎日過ごしている。雨の日は楽しそうに窓の外を眺めている。

 同僚が消える毎に友人の秘密は膨らんでいく。

 とうとう社長までもがいなくなった。

 「社長がいなくなったら、この会社はどうなるんだろう。経理課はもう私と君だけだ」

 友人はニヤリと笑い、胸をなでさすった。 

 「プラカードは友好に有効に効き目をもたらす。じきに君の番かも」

 私はすぐに会社に辞表を出し、会社を辞めた。

 友人だけが私を見送ってくれた。

 ある雨の日、その友人もどこかへいなくなったと言う。

もう私には関係ないけれど、雨の日は不安を隠せない。

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