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0(1)件目 少年にとっては事件だった:1

 

 というわけで、「校内関係者によるホニャララ案」は三年余りをかけ実現した。

それから十数年たち、当時の首相や時代を知らない人々が屯する世の中で、いまだ小人人口と未成年の犯罪件数は増加傾向にある。対して、世界的にみると人口は減少傾向であり、それが原因か、以前は飛躍的な進歩を遂げていた機械機器類・IT関連の開発が停滞している。これは人類にとって大いな損失であるが、かといってこの国から集中的に、有能で未来のある若者を枯れぬ泉のように輩出せよ、なんていうのは無理難題である。


とにかく世界は相変わらずで、人々が想像していたような近未来的な建造物も乗り物もなく、異世界人も攻めてこない。変わったことと言えば、十数年にわたって着実に進化を遂げてきた秘密裏の組織の存在。

持たざる者は知ることすら許されない事実。持ってしまった者は隠し通さなければいけない事実。幸せなのはどちらだろうか___そんな混沌の狭間にいる英雄の一人が、この少年である。



安芸津鷹良は凡人に近かった。容姿も性格もオーラや手先の器用さも。頭脳で言えば凡人以下である。その証拠となる見事に低い点数が赤で書き殴られた用紙は安芸津自身に「禁書」と名付けられ、愛用のリュックサックの奥底に封印されている。


しかし彼は、一種の点では凡人ではなかった。そして、今ほどそれを感謝することはないと後になって本人は思う。

現在、安芸津鷹良はママチャリに乗っている。

明らかにおかしい展開だが、本当のことなので仕方がない。彼は、偶然みつけたそれを全力で走らせながら、狭い路地を必死に駆け抜けていた。

「俺の、俺の・・・全財産と禁書返せーーー‼」

その目線が捉えているのは、同じように自転車を必死に漕ぐ、全身黒づくめの人影。豆粒ほどに見える距離にいるその人物の背中には、リュックサック。そう、禁書の封印場所である。実は家路を急いでいた途中、自動販売機でジュースを買うために財布を取ろうと鞄を下ろした瞬間、ひったくられたのである。人影は、狭く入り組んだ路地をなんの迷いもなく走り抜ける。土地勘のある人間なのだろう。しかし、安芸津も負けてはいない。日頃の努力の賜物で、体力には自信がある。それに、自転車は得意だ。なぜなら、彼が持ってしまった才能であるから。

「そういや最近この辺でひったくりが多いっつってたな・・・あいつか!」

ひったくり犯の後を追って路地を右に曲がると、行き止まりになっていた。しめた、と思ったも束の間、ひったくり犯は自転車を乗り捨て、人一人やっと通れるくらいの狭さの道に入って行った。

安芸津は後を追うのをあきらめたと思いきや、普段使わない頭をフル回転させる。嫌というほど覚えさせられた町の地図。それをもとに作戦を組み立てる。

あの道はすぐに行き止まりになる。そしたら、住宅と住宅の隙間をぬって行こうとするはずだ。でもあそこの住宅地はまばらに立っているため、十八のルートのうち十四は他の家に邪魔されて通れない。塀を渡るのは危険だから、残りのルートに限られる。残りの四つの出口のうち、二つは土手側。橋は近くになく、川を飛び越えることは不可能なため、却下。残りの二つは、ちょうど今頃葉桜になっている、桜の木がずらりと植えてある桜通りに出る。二つの出口の距離はせいぜい民家一つ分で、十メートル。とりあえず桜通りに出れば、余裕でお縄に頂戴だ。イヤ、待て俺。相手は土地をよく知る人物だ。すぐに出口を見つけだし、桜通りに出るだろう。足と自転車といえども、大回りする必要があるこちらの分が悪い。仕方ない。危ないが、こうするしかない!


 

長いのでいったん切ります。

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