手始めに
普通ではなかった。
どこまでも現実的で、無機質なものを手にしていても、少女は普通に存在しえないものに見えた。
黒髪が見えない風に揺れる。均等に折られたスカートのひだも同じ風に翻る。
たった数秒の出来事が、もっと、ずっと長く感じた。
ただ、美しかった_____
たとえ高く上げた左手が掴んでいるものが、31という中途半端な数字が赤で書き殴られた答案用紙であっても。
少子化が叫ばれていた時代から数十年たった現在。そんな時代とは打って変わって世間は多子化が叫ばれるようになった。
日本国内だけでもここ数十年で人口は約2倍になり、高齢者と若者の割合はほぼ同等。初めのころは喜ばしかった状況も、第3次ベビーブームにより出生率が爆発的に増え、比例して未成年者の犯罪数も同様な有様になれば、政府は困惑せざるを得なかった。
そこで政府は、国の行く末を守るべく、一つの案を打ち出した。
「学校関係者による校内・校区内の自警組織確立案」
あまりにも突飛していて異質なものだっただけに、政府はこれを極秘事項にし、世間に公表せずに内閣総理大臣を含めた特定のメンバーで会合を開き、可決を取ることにした。
この会合で出した結論は、想像通りのものである。
次に政府は、この案の実用化に乗り出した。学校選考の条件は以下の通りだ。
・高等学校であること
・総生徒数1,000人を超える所であること
・校内・校区内で起きる犯罪が多い所であること
以上3つ。簡単に見えるが、当てはまったのは全国何千校のうち数十校のみ。
法案可決から実に3年後、全国十数校に関連組織が確立されていった。それに伴い、高等学校生は不幸にも国に巻き込まれる生徒と、その生徒に制裁される生徒に二分割されるようになった。
いつからか、不幸であった巻き込まれる生徒は英雄になっていた。
そして、ここにも。
不幸にも幸福にも最高にも最低にもなり得る英雄が、一人いた。