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警察不信  作者: 山本正純
Episode 4  ミステリファンなら必ず分かる。だから安心してサスペンスに集中できるバスジャック事件
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Side.087 正体 True character

 バスは東京スカイツリーの駐車場に停車する。停車したバスを小早川せつなに変装した宮本栞は見ていた。


 神奈川県警の狩野は小早川に確認する。

「本当にいいのですか。あのバスに乗り込んだら死ぬかもしれませんが」

「大丈夫ですよ。関係ない人質が巻き込まれているんです。彼らを助けるためなら、要求に従うしかないではありませんか」


 神奈川県警刑事は拡声器でバスジャック犯に呼びかける。

「小早川せつなが到着した。今すぐドアを開けるんだ」

 運転手はドアを開けた。開いたドアに向かい小早川せつなは歩き出す。その後ろ姿は何かを覚悟したようだった。


 運転手は小早川せつながバスに乗車したことを確認すると、ドアを閉める。

 

 バスに乗り込んだ小早川せつなは辺りを見渡す。バスの中には3人の男女が倒れこんでいる。その3人は気絶しているようだった。江角千穂と茶髪に赤い眼鏡の男性と牧田誠は立ち上がっている。

 彼らと対峙するように吉野智子は拳銃を構えていた。


 小早川せつなは全てを悟った。バスジャック犯は一人ではなかった。そのもう一人のバスジャック犯は信頼していた人物。


 小早川せつなは絶句して、唯一の武器であるスタンガンを座席の上に置いた。

 

 ウリエルの行動を見て江角千穂は驚く。組織が立てた作戦は、バスに突入したウリエルと協力してバスジャック犯を暗殺するというものだと思っていたからだ。


 小早川せつなはマスクも捨てる。

「吉野先生。もういいでしょう。あなたを犯罪者にできません。拳銃を捨ててください」


 小早川せつなの言葉を聞き、吉野は笑う。

「ふざけないでくれる。あなたに先生なんて言葉使う資格ないでしょう」

「いいえ。資格はありますよ。私が教師になろうと思ったのは、教育実習生として高校に来ていたあなたに出会ったから。私はあなたを信じています。それにあなたの相棒の佐藤真実さんと私は腹違いの姉妹。お姉さんを助けたいからこんなバスジャック事件を起こしたのでしょう。でもあなたたちは勘違いをしています」


 ウリエルは衝撃的な真実を吉野たちに伝える。

「佐藤真実は不穏因子を導き出すために組織が用意したスパイです。佐藤真実監禁事件は自作自演です」


 この真実を聞いた牧田は叫ぶ。

「嘘だ。あいつがテロリストの仲間になるはずがない」

「いいえ。彼女は我々組織のメンバー。とは言っても彼女は下端ですが。おかしいでしょう。ブラッディティアに感染したのは佐藤真実だけという状況が。あのバイオテロはフェイクだとしたらすべての辻褄が合うと思いませんか」


 吉野たちは絶句する。

「組織を潰そうとしている不穏因子がもう一つあると知った私は佐藤真実をスパイにして不穏因子の所在を確かめました。そして組織を潰そうとしているグループに潜入させて、内側からグループを解体しようとしました。私からアタッシュケースを奪うことができたのは、あらかじめ私がどこに現れるのかを知っていたから。公安もつかめていない情報を一般人が知ることはない。つまり佐藤真実姉さんはあなたたちのグループを崩壊させるために用意したスパイだった」


 吉野は涙を流しながら小早川に質問する。

「何で彼女は組織のメンバーになったの」

「それも分かっていませんでしたか。答えはあなたがよく知っていると思ったのですが。腹違いの妹に自首をさせるためです。腹違いであったとしても姉妹は姉妹。妹のテロ活動を止めたかったのでしょう。因みに小早川せつなは腹違いの姉妹がいることを知った時に考えた偽名。幸い仲間が戸籍を偽装してくれたから、腹違いの姉さんの周囲で小早川せつなとして生活することができました。腹違いの姉さんが佐藤真実だと知った時に偽名を破棄しようと思いましたが、ある時父親の麻生さんが入院していることを知って、破棄を断念しました。小早川せつなとして麻生さんに会えば、親子のように接してくれると思ったから」


 吉野は放心状態になり拳銃を落とす。

「私は何のためにバスジャック事件をやったのですか」


 こうしてバスジャック事件は解決された。かのように思えたが、この展開を快く思わない人物がバスの中にいた。

「お前ら。何だよ。その茶番は」

 

 運転手の西沢夏樹は拳銃を取り出し構える。

「俺の運転するバスでバスジャック事件を起こしておいて結論が自首だと。そんな展開俺は望んでいない。お前ら俺を覚えていないか」

 

 牧田誠と吉野智子は運転手の顔を見たが、思い出すことができなかった。

「誰でしたっけ」


 牧田が質問すると、西沢は激怒する。

「俺は西沢夏樹。覚えてないのか。7月にコンビニ強盗事件が起きただろう。あの事件で死んだ西沢冬馬の父親だよ。冬馬の葬式の日にあんたらを見て俺は確信したさ。お前らが冬馬を殺したんじゃないのかとね。証拠はないからただの思い込みかもしれなかったが、そうしないと冬馬の死を受け入れることができなかった。お前らがバスジャック事件を起こした時に俺は思った。これは復讐のチャンスだと」


 西沢は牧田に銃口を見せて指示する。

「爆弾のスイッチを押すんだ。警察はバスジャック犯が一人だと思い込んでいるようだから、真実は隠蔽できるだろう。警察は牧田が人質を巻き込んで爆死したと思い込むからな」


 その時西沢の体に電気が走った。何が起こったのか分からないまま西沢は気絶した。西沢の後ろにはスタンガンを持った小早川せつなことウリエルが立っている。

「ごめんなさい。スタンガンは手の届く位置に捨てました。そうしないといざという時に戦えないでしょう」


 ウリエルはウインクすると、バスのドアの開閉装置を操作してバスのドアを開けた。こうして犯人が多すぎるバスジャック事件は解決した。


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