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警察不信  作者: 山本正純
Episode 4  ミステリファンなら必ず分かる。だから安心してサスペンスに集中できるバスジャック事件
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Side.081 救難信号 Distress beacon

 11時59分。横浜中央大学の会議室に宮本栞はいた。彼女の周りには多くの警察官が集まっている。机の上には彼女のスマホが置かれていた。

 

 狩野警部は宮本栞に話しかける。

「小早川せつなさんはどこにいますか」

「知りません。小早川せつなが今どこにいるのか分かりませんから」

 

 宮本栞は神奈川県警に対して嘘を吐く。ここで真実を話せば、面倒なことになるから仕方ないだろう。

「とぼけるな。小早川せつなとあなたは双子の姉妹だろう。本当は彼女の所在を知っているんだ。あのバイオテロの日。あなたはバイオテロ事件に関わったのではありませんか。あなたはこの事実を隠すために自分に顔が似ている小早川せつなにアリバイ工作を依頼しました。その証拠にあの日この横浜大学に通っていたあなたは、マスクで顔を隠していた。きっと口元に黒子のようなものがあるということでしょう。宮本栞と小早川せつなを見分けるための根拠をマスクで隠した小早川せつなはあなたに変装してアリバイ工作をしました。これが真相でしょう」

 

 大体合っていると宮本栞は思った。バイオテロ事件のアリバイ工作までは正解だった。だがアリバイ工作を依頼したのは小早川せつなでなく、江角千穂だった。小早川せつなの所在は彼女自身も知らない。正確に言えば彼女は小早川せつなの正体を知っている。だがこの真実を警察に説明すると、今晩の作戦に支障が出る。

 宮本栞は黙秘するしかなかった。自分が退屈な天使たちのメンバーであることを警察に伝えないために。


 その頃横浜オリエント観光バスの中で、江角と東條は10人の容疑者の行動を観察していた。一通り観察が終わった江角達は小さな声で推理を話し合う。

「あの家族連れは白と考えていいのではありませんか。まさか6歳くらいの息子と一緒にバスジャックなんてしないでしょう」

「アホ。あの息子が誘拐した子供やとしたら、そんな理屈通用せえへんで。誘拐した子供をと一緒にバスジャックをすれば、捜査を撹乱することができるちゅうわけや。バスジャック犯が親子連れな訳がないと警察は考えるはずやからな。それにあの子供はこのバスに乗車した時体が震えていたんや。バスジャックが起きてへんのにおかしいと思わんか」


 江角は一番前の席に座っている、バスジャック犯と一緒に乗車した女を見る。

「バスジャック犯と一緒に乗車したあの女性はどう思いますか。私は白だと思いますが」

「俺も白やと思うで。あの10人の容疑者の中で一番怪しい姉ちゃんやけど、バスジャック犯が態々一番前の席に座るとは思えんからな。普通は人質たちの行動がよく見える後部座席に座るはすやから」


 とりあえず容疑者は8人に減った。

 

 バスジャック事件発生から90分が経過した午後1時。バスは横浜に戻って来た。

 牧田はトカレフの銃口を見せながら人質に要求を伝える。

「これから最寄りの道の駅に停車しろ。そこで子供と老人を解放する。一人でも大人が逃げようとしたら、爆弾を爆発させる」


 突然バスジャック犯は人質の内子供と老人を解放することにした。最初から横浜に着いたら子供と老人を解放するつもりだったらしい。そのために子供と老人の携帯と大人の携帯を分けて回収したのだろう。


 だとしたらその目的は何なのか。江角たちにはバスジャック犯の真意が分からなかった。

 バスジャック犯は詳細な人質解放作戦について人質に伝える。

「これから最寄りの道の駅にバスは停車する。バスが停車したら運転手はドアを開ける。そのドアから子供と老人はすぐに避難だ。その時に赤い巾着袋を窓の外に投げ入れる。バスが停車してから一分後バスを発進させろ。その後は時間になるまで適当に横浜市内を回ってもらうからな」

 

 その頃須田哲夫は昼休憩中、ニュース番組を観ていた。その番組では横浜オリエント観光バスジャック事件を生中継で報道していた。

『私は今横浜市内にあるビルの屋上にいます。たった今ジャックされたバスが目撃できました。バスは現在横浜市内を走っています』


 須田はテレビを切って携帯電話を取り出す。先ほど神奈川県警に潜入捜査をさせていた刑仲間から、バスジャック犯の要求が小早川せつなを探すことであることと連絡があった。さらに宮本栞が神奈川県警の監視下にあることも知った。このことを彼はガブリエルにメールで伝える。それから一分もしない内に返信メールが届いた。

『5時間以内にバスジャック犯を懲らしめてください』

「了解」


 須田は微笑みながらある人物たちにメールを送る。

「追跡者はレミエルでいいでしょう」

 その時サマエルから電話がかかってきた。

『おもしろいものことが分かった。組織のコンピュータに救難信号が送られてきた。今から二時間以内に送られてきたもので、発信源はサラフィエル』

「それは本当ですか」

『はい。間違いありません。組織のコンピュータに救難信号を送るためには本人しか知らないパスワードを入力する必要がありますから』

「まさか事件に巻き込まれていたとは。本当に人質になっているのかを確認します」

 須田は携帯電話を切り微笑む。使えるカードが増えたからだ。

 

 こうして退屈な天使たちはバスジャック事件に関わることにした。


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