Side.061 迂闊なジョニー Careless Johnny
久しぶりのコメディ回です。
それから入れ違いでジョニーはイタリアンレストランディーノを訪れた。この時間帯は組織の関係者しかいないだろうと思った彼は開口一番にあの言葉を言いながら店の中に入る。
「ハイ。ウリ・・」
ジョニーは目を疑い言葉を躊躇した。こ毎日のようにこの時間帯はウリエルの貸し切り状態が続いているのだから、挨拶として彼は「ハイ。ウリエル。元気か」と言おうとした。だが今は二人の男しかいない。挨拶をしようとしたウリエルもいなかった。何とかしてごまかす必要があると考えたレミエルはとっさにあることを思いつく。
「ハイ。瓜の和風パスタ一つね。裏メニューのやつだ」
「了解」
先ほどのウリエルの嘘に説得力を持たせるため板利は二人の刑事に彼を紹介することを思いついた。 刑事たちが注文したミートソーススパゲッティを配膳すると彼は先ほど入ってきたスポーツ刈りの外国人を紹介する。
「先ほど入ってきたあの外国人はジョニー・アンダーソン。小早川せつなに英会話を教えた家庭教師です」
「へー」
紹介すると板利は厨房に帰り、カウンター席に座ったレミエルにメモをさりげなく渡す。
レミエルは誰にも気づかれないようにメモを読む。
『あなたは小早川せつなの英会話教師。後は適当に見繕って』
レミエルは小さな声で呟く。
「了解」
すると板利は瓜の和風パスタをジョニーに配膳する。そのパスタを彼は五分で食べ終わった。それと同時に木原たちもミートソーススパゲッティを完食した。
先に会計を済ませたレミエルだったが、会計を待っていた木原たちに声をかけられた。
「すみません。警視庁の木原と申します。この店の店主板利明さんからあなたが小早川せつなさんの英会話教師であると聞きました。そこで一つだけ質問をしてもいいですか。小早川せつなさんはどのような人なのでしょう」
「成績は優秀で性格は優しいお人よしタイプ。今回の交換留学について彼女は喜んでいました。やっとハーバード大学で学ぶことができるって」
それだけ言うと外国人の男は店を出て行った。その後木原たちは会計を済ませ東京へと戻っていった。
刑事たちが戻ったことを確認した板利明は宮本栞に電話する。カウンター席には戻って来たジョニーが座っている。
「単刀直入に聞く。小早川せつなって誰だ。小早川せつながいるように偽装したから、口裏を合わせてレミエルを英会話教師にしたが、何者かを教えろ。そうじゃないと偽装工作をした理由が理解できない」
サマエルの質問にウリエルはさらりと答える。
『小早川せつなは私のもう一つの顔。かもしれない女。別の言い方をするなら、私のルーツを知る女でしょうか。レミエルにありがとうと伝えてください』
「その言葉は本人に言ってくれ。あれから入れ違いでレミエルが戻って来たからな」
そういうとサマエルはレミエルに携帯電話を渡す。
「俺だ」
ウリエルはもう一度感謝の言葉を伝える。
『ありがとう』
「まさかあの女がマークされるとは」
『はい。でもこれからおもしろくなると思いますよ。一緒に楽しみましょう』
レミエルは電話を切り、サマエルに携帯電話を返した。その後レミエルはデザート・イーグルを磨きながら歯を出して笑う。
「ラグエルに伝えろ。小早川が動き出したってなぁ」
ジョニー・アンダーソンはレミエルの本名です。




