Side.057 幼馴染との再開 Resumption with a childhood friend
午前10時菅野は警視庁組織犯罪対策課を訪れた。菅野が訪れた時に須田哲夫は部下に指示を出していた。
「流星会の幹部が麻薬を密輸しているそうです。取引が行われるのは今日午後1時の東京湾第三コンビナート。この時間帯に合わせて一斉摘発を行いましょう」
部下たちが須田から離れたことを確認した菅野は須田に声をかける。
「弁護士の菅野聖也と申します。須田哲夫警部補。少しお話を聞いてもよろしいですか」
須田には弁護士が話しかけてきた理由に心当たりがあった。彼はその理由を菅野に確認する。
「三か月前に逮捕した流星会幹部橘川の弁護をするそうですね。その裁判の話でしょうか」
菅野は首を横に振る。
「いいえ。あなた自身の話ですよ。あなた本当は私の幼馴染ではありませんか。どことなく雰囲気が似ています」
菅野の言葉を聞き須田は失笑してから質問に答える。
「違いますよ。僕はその幼馴染の弟です。まさか兄さんの知り合いに会えるとは。十分間近くにある公園で話しませんか。久しぶりに兄さんの話を聞きたいでしょう」
須田は菅野の肩を持ち移動するよう促す。菅野は須田の申し出に答え、警視庁近くにある公園で話をすることにした。
公園に到着した菅野は須田に質問する。
「二人きりにしたということはあの質問の答えは正解ということですか。愛澤君」
「はい。他言無用な話になることは確実でしょう」
確認が終わった菅野は愛澤に質問を続ける。
「ファイルΩが保存してあるコンピュータが何者かにハッキングされました。それはあなた方退屈な天使たちの仕業ですか」
「そうですか。ハッキングされましたか。奇遇ですね。退屈な天使たちのコンピュータもハッキングされましたから」
この事実を聞き菅野は驚く。
「一体どういうことですか」
「組織のコンピュータにハッキングとは言っても組織のメンバー全員の個人情報が入ったファイルは流出していませんが、過去10年間の犯行声明のデータがハッキングされました。つまり今朝警察とマスコミに発表した犯行声明は我々退屈な天使たちを隠れ蓑にした模倣犯によるものです。でも佐藤真実を監禁しているという事実は正解ですが」
愛澤から聞いた情報から菅野は状況を整理する。
「ファイルΩを不正アクセスで閲覧された第一の事件。過去10年間の退屈な天使たちの犯行声明をハッキングされた第二の事件。これらの事件の犯人は同一犯の可能性が高いということですね」
「はい。国家機密クラスのコンピュータにハッキングできるハッカーは少ないからね。ここは休戦協定を結び、化け狐を狩ったほうがいいでしょう。組織の目的にとってファイルΩは必要ないデータですが、
化け狐によってデータが公表されれば国家が転覆して、政界にとって不都合になる。この世界を守るためには化け狐を殺した方がいいと思いますが」
この取引は悪魔の取引だ。テロリストに国家を守るためハッカーを暗殺してもらうことが世間に知られたら、不祥事になる。決断ができなかった菅野は愛澤に申し出る。
「明日答えを伝えます。明日この時間帯に来てください」




