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警察不信  作者: 山本正純
Episode 3  幻影の娘
52/106

Side.052 最愛の人の最期 The dearest person's last moment

 1997年7月18日杉谷雄介は狭い部屋の中にいた。部屋の広さは三畳。この部屋はまるで刑務所のようだった。だがここは刑務所ではない。ここは馬場研究所の中。研究員たちはこの部屋に人体モルモットを集めている。


 そんな彼の前には一人の女性が仰向けの状態で倒れている。彼女の体は赤くなっている。これだけで杉谷は全てを悟った。あのウイルスに感染したのだと。この研究所に連れてこられてから何人もの感染者を見てきた杉谷には分かった。彼女はもうすぐ死ぬのだと。

 杉谷は女の右手を持つ。

「明日香。約束したじゃないか。一緒に脱走するって。あなたがここで死ねば、俺は生きることができない」


 明日香は衰弱した声で杉谷に呼びかける。

「もう無理だよ。あたしの命が後一日だから。万が一脱走に成功したって、外の世界にも治療法は存在しないから死ぬしかない。だからあたしの死体を運んであなただけでも生き残って。あたしの死体を解剖すれば未知のウイルスが体内から検出されるはず。そうすれば奴らの研究を潰す切り札になるから」

 

 杉谷はそんな彼女の指示に納得することができなかった。

「だめだ。絶対に二人で生き残らないといけないんだ。そうじゃないとあの約束が果たせない。この悪魔の実験を潰して結婚する夢だ」

「分かってない。あたしは絶対に死ぬの。死ななかったとしても生きた屍になることは確実。そんなあたしをあなたは愛することができるの」

「できるよ」


 杉谷は明日香にキスをする。いきなりの行動に明日香は驚き目を見開く。そんな彼女を見て杉谷は冷静に説明する。

「大丈夫だろう。あのウイルスの感染経路は空気感染のみ。だからキスをしても大丈夫だ。

仮にこれで感染したとしても、明日香がいない世界を生きるなんてできない」


 杉谷の言葉に勇気をもらった明日香だったが、体が思うように動かない。明日香の体からは大量の汗が出ている。明日香は42度以上の高熱に苦しんだ。彼女は死ぬ時が近づいていると悟った。

「ごめんなさい。あたしだめみたい。ありがとう。本当に短い人生だったけど、あなたに出会えてよかった」


 この言葉を言いきると彼女は口から吐血し絶命した。彼女の死体の前に杉谷はたたずみ涙を流す。

「許せない。ウイルスの実験をして彼女を殺した研究員が」

 絶望していても状況は変わらない。次に死ぬのは彼自身かもしれないのだから。杉谷はこの日のために準備した脱走計画を遂行する。


 それから一時間後人体モルモットが収集されている牢獄が爆発した。研究員たちは爆発に驚き牢獄へと向かう。杉谷がいたはずの牢屋は破壊され、杉谷の姿は消えていた。研究員のリーダーは仲間に指示を出す。

「探せ。まだ近くにいるはずだ」


 だが研究員には分からないことがあった。それはなぜ爆発が起きたのか。牢獄には爆発が起きるようなものはなかった。何が起きたのか分からなかった研究員たちを20代前半の巨乳の女は見ていた。彼女は後のガブリエルである。


 ガブリエルの近くには明日香の死体がある。

(初仕事がこれになるとは。それにしても結構うまくいきました。爆弾で牢屋を壊し逃走させる作戦)

 ガブリエルは明日香の死体をお姫様だっこする。

(悪く思わないでください。あなたを助ける報酬として彼女をもらうだけだから)


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