Side.030 政界の陰謀 The intrigue of the political world
合田は井伊から貰った名刺を裏返し確信した。
「やはり神部首相補佐官は容疑者のようだな。見ろ。名刺の裏側に信賞必罰と書いてある。
それだけこの四字熟語に執着がある証拠だ」
合田の言うように、名刺の裏側は習字のような書体で信賞必罰とプリントされていた。しかし望月は首を傾げる。
「ちょっと待って。流星会幹部小野田が持っていた名刺にはそんな四字熟語はプリントされていません。鑑識に渡してあるから確認したらどうですか」
「そうするか」
二人は受付で神部首相補佐官を呼ぶよう話したが、受け付けは彼が面会中だから会えないと言った。仕方なく合田は神部の携帯電話で電話をする。しかし神部は携帯電話に出ることはなかった。
その頃酒井忠義衆議院議員は神部首相補佐官と面会していた。雑談中に何度も携帯電話が鳴っていたので、酒井は神部に電話に出るよう促す。
「そろそろ電話に出た方がいいでしょう。それとも電話に出ない理由でもあるのかな」
「いいや。特にない。強いて言うならこの時間帯に電話してくる奴はたいていマスコミか警察だろう。俺は警察とマスコミが嫌いだから怒っているときは居留守を使うことにしている」
「そうですか」
酒井は秘書を呼ぶ。
「紅茶をお願い」
神部は酒井の秘書に注文する。
「俺は何もいらない」
「そうですか。お茶会でもしようと思ったのに」
秘書が戻ってくるまで酒井は神部と雑談をする。
「それであいつはどうなった。死んだか」
「死んだな。俺が法務大臣をしていたころに。死体が見つかったのは丁度その頃だが、それより前に殺されたらしいじゃないか。あの事件は堕天使たちの報復の発端だったからよく覚えている」
神部は老眼鏡を外し、レンズを拭きながら酒井に質問する。
「なぜ今その事件の話をした」
「そろそろ我々も動き出す頃かなと思ったからですよ。我々五人が集まれば確実にあのプロジェクトを成功させることができる。9月に16年前の国会議員失踪事件が解決されたでしょう。最大の障害であった彼を殺したのは我々の中にいなかったことが分かった時俺は成功を確信した。殺人犯がこの中にいないなら円滑に計画を進めることができる」
「そのために鬼頭を来日させたのですか。そして流星会幹部小野田を殺害した」
神部の推理を聞き酒井は笑う。
「まさかそれが真実だと思ったのか。それは侵害だな。俺は退屈な天使たちの動向にマスコミが注目している間にことを進めようと目論んでいるだけだ。その方が容易に作戦を遂行することができる」
「それでその計画が開始されるのはいつですか」
「10月31日かな。あの日は大工健一郎の誕生日パーティーの日。あいつらが本格的に動き出したなら、奴らは確実にパーティー会場を襲う。我々五人はこのパーティーに参加するから最終決戦にもってこいでしょう。なぜか奴らのターゲットは大工である確率が高いからな」
酒井の秘書は紅茶を酒井に渡す。政界の陰謀を楽しむかのように酒井は一気に紅茶を飲んだ。




