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警察不信  作者: 山本正純
Episode 2  信賞必罰
28/106

Side.028 残された三枚の手掛かり The left-behind key of three sheets

 五分後望月は喜田参事官を一緒に合田警部たちがいる捜査一課三係にやってきた。望月は係長である合田に握手を求める。

「この前の爆弾事件ではお世話になりました。今回は捜査協力を求めたいと思います。千間刑事部長からは許可を取りました」


 何のことか分からない合田は首を傾げる。喜田参事官は彼女の事情を説明する。

「一昨日群馬県のペンションで流星会幹部小野田が殺害されました。組織犯罪対策課は群馬県警と協力してこの事件を調べたそうです」

 

 喜田の話に続くように望月は説明をする。

「その小野田の遺留品である財布からある人物の名刺が発見されました。その人物は首相補佐官の神部健。我々組織犯罪対策課は政界と指定暴力団流星会が癒着しているのではないかと疑っています。そこであなたたちの力が必要になりました。あなたたちは16年前の国会議員失踪事件を解決しました。政界からの圧力からも屈せずにね。我々は真実が知りたい。それが不祥事を暴くことになろうとも」


 望月の話を聞き合田は首を横に振る。

「残念だがそれはできないな。あの事件はお前らの管轄の事件だろう。流星会幹部小野田を殺害した被疑者は鬼頭だということは誰でも分かる。その動機は暴力団の権力抗争だ。我々捜査一課が入る余地がない。後ろ盾が欲しいなら浅野房栄公安調査庁長官にでも頼めばいいだろう。いつでも連絡先は教える」

「結構冷たいですね。それなら切り札を使いましょうか。群馬県のペンションで殺害された小野田の死体のそばにシールが落ちていたそうです。賞という漢字がプリントされたシールが。しかし北海道と島根県の現場に残されたのはカードでした。北海道が必。島根県は信。なぜ第三の犯行はシールになったのかは分からないが、現場に残されたこれらの漢字を並び替えるとある四字熟語になります。その四字熟語は信賞必罰。意味は分かりますね」


 合田はこの四字熟語の意味を思い出す。

「賞罰を厳格に行うこと。賞すべき功績のある者には必ず賞を与え、罪を犯し、罰すべき者は必ず罰するという意味だな。その四字熟語がどうした」

「忘れましたか。7年前神部首相補佐官が法務大臣だったころのスローガンを。それが信賞必罰でした。そのスローガンを守るため当時彼は死刑執行を積極的に行いました。それが加害者遺族の逆鱗に触れわずか三か月で大臣を辞任しました。これだけの情報が揃っていれば気になるでしょう」


 合田は望月の説得に中々首を縦に振らない。

「この六日間鬼頭が現場に残したカードやシールを並び替えると信賞必罰になる。この四字熟語は神部首相補佐官が当時法務大臣だったころに使っていたスローガン。第三の事件の被害者流星会幹部小野田の財布から神部首相補佐官の名刺が発見された。以上のことから組織犯罪対策課はこの一連の事件に神部首相補佐官が絡んでいるのでは疑っているということか。でもそれだけの情報で黒幕が神部首相補佐官だと考えることはできない」

 

 そこへ望月の部下である須田哲夫警部補が捜査一課に入ってきて望月に報告を始めた。

「望月警部。また神部首相補佐官と一連の事件が繋がりました。北海道釧路市にある中村邸から盗まれた絵画はオークションで競り落としたもので出品者は神部健でした。さらに松江市ルイース・ティラミス美術館から盗まれた彫刻は神部首相補佐官が寄贈したものです」

 

 鬼頭が起こした連続強盗殺人事件と神部首相補佐官は繋がった。一連の事件の黒幕は神部首相補佐官なのか。合田たちは政界の陰謀を疑う。


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