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警察不信  作者: 山本正純
Episode 2  信賞必罰
24/106

Side.024 幻の殺人事件 The murder case of a phantom

この物語はこれから起きるあのテロ事件の発端。


この物語に散らばめられた謎の答えはEpisode 2が完結する前までに作中で行われる予定です。

 1997年7月19日。杉谷雄介は山で遭難していた。この山がどこにあるのかさえ彼には分からない。杉谷は柳の幹に触り休憩する。

「早くしないと奴らが」


 大量の汗を掻き怯えるように彼は逃げている。真夏の山中荷物ももっていないことは不自然だ。最低でも水くらいは持っている。それだけでも彼は異質な状況であることは分かるだろう。これはただのサバイバルゲームではない。命を懸けた逃走劇である。

「みいつけた」

 

 目を見開いた男は声が聞こえた背後を振り返る。そこには白衣を着た研究員らしい男がいた。男は微笑む。

「さあ帰りましょうか。研究所のみんなが待っています。あなたは人間のためになる研究に関わることができる権利があります」

「ふざけるな。お前らは俺の彼女明日香を殺した」

 

 研究員は男の肩を持つ。

「あなたがこの楽園に来なければ出会わなかった彼女に同情しているのですか。それは非常に興味深い。恋愛ごっこをさせていただいたことに感謝してほしいものですよ」

「恋愛ごっこだと」

 

 杉谷は研究員の頬を素手で殴る。

「たしかにお前らが俺をここに連れてこなければ明日香に出会うことはなかった。だがあれは恋愛ごっこじゃない。俺は彼女を愛していたからな。お前らの実験を潰して結婚するつもりだった。その夢も昨日彼女が死亡したことで終わった。警察がお前らを逮捕してもらわないと彼女が天国で笑えない」

 

 研究員の男はコルト・パイソンを取り出し銃口を逃亡犯に向ける。

「政界の御曹司に説教されるという武勇伝を我が人生の一ページに載せてくれてありがとうございます。ではクイズをしませんか。現在あなたを追っている追跡者20名の内、指定暴力団流星会のメンバーは何人でしょう」

 

 蝉の鳴き声が聞こえる中で彼は答える。

「10名だろう」

 

 研究員は銃口をさらに近づける。

「残念。不正解です。正解は流星会のメンバーなんて使う訳ないだろうが。この馬鹿野郎でした。流星会と我々の接点を表沙汰にするわけがないでしょう。流星会の皆さんには麻薬工場の敷地を貸すだけで十分です。ということであなたにはここで死んでもらいます」


 杉谷は鼻で笑う。

「そんなことしたら研究が中断するのではないか。お前らが大切にしている実験を潰すようなことをしていいのかよ」

「いいのですよ。あなたの代わりはいくらでもいます。笑ってくださいよ。大切な彼女の後を追えるのだから」

 

 銃弾は男の心臓を打ち抜く。男は倒れ野原を血で染めた。研究員は脈を図り彼の死亡を確認すると、携帯電話を取り出し電話した。

「鴉さん。死体の処理をお願いできますか。実験中の事故死として処理しますから」

 研究員は携帯電話を切ると死体を見ながら笑う。

「多くの人間が血の涙を流すことになるまで時間はかかりそうです」


 15年前に発生したこの事件は幻の殺人事件のはずだった。あのテロ事件が起きるまでは。


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