Side.023 終わりの始まり The beginning of the end
後一歩でウリエルたちがいる7階に足を踏み入れるという所で木原たちは足を止めた。
彼らの目の前に須田哲夫警部補が現れたのだ。
「須田警部補。ここで何をしているのですか」
「流星会の拳銃密輸取引がこの7階で行われるというタレこみが入って調べていました。ガセネタでしたが代わりに面白いものを見つけましたよ」
須田は廊下に置いてあるデジタル時計を指差した。そのデジタル時計は5分で止まっている。
「おそらくあれは爆弾でしょう。退屈な天使たちはこのビルを爆破するつもりですよ。このビルから半径3キロ圏内に爆弾を仕掛けたという犯行声明を出した連中です。説得力はあります。爆発物処理班は近くまできています。ここは避難した方がいいでしょう」
だが木原たちはその説明に納得しなかった。
「しかしこの7階に退屈な天使たちのメンバーが紛れ込んでいる可能性もあります」
「いいえ。そんな奴らはいませんでしたよ。仮にあなたたちが言っていたことが事実だとしたら避難した方がいいのではないですか。退屈な天使たちのメンバーを発見したとしたら確実に銃撃戦が発生します。銃撃戦をしていたら5分なんてあっという間に経過して爆弾が爆発するでしょう。奴らは逮捕されるくらいなら自殺した方がましと考える連中です。捜査員を道連れにしてでもね。そんな危険な組織をたったの三人で相手することは危険でしょう」
須田の説明に納得した木原たちは悔しみながら避難を開始した。
丁度その頃ウリエルは清掃員に変装して渋谷クリーンビルを脱出する。ビルを脱出した彼女は路地裏に駐車していたハーレーダビッドソン・VRSCの鍵を差し込む。フルフェイスのヘルメットを装着した彼女はバイクを発進させる。
(鬼頭は今頃清掃員に変装した鴉さんが運んでいるでしょう。私はアジトに戻るだけ)
バイクを走らせると最初の信号機が赤信号になった。周りを見ると再び警察官がビルの周りに集まっているようだった。その中にラグエルの姿を発見した彼女は彼を見つめる。
(ありがとう。ラグエル)
ウリエルは須田に背を向けてバイクを走らせる。走り去ったバイクを須田哲夫は見つめた。丁度その時渋谷クリーンビルの7階から爆音が鳴り響いた。7階からは黒煙が上がっているが、ビルは倒壊していない。
(今回は最低限の威力の爆弾にしました)
この事件はこれから起きる日本中を震撼とさせる劇場型犯罪のプロローグにすぎなかった。そのことを警察組織はまだ知らない。




