Side.002 拉致された逃亡犯 The abducted fugitive from justice
国枝博。7月2日に発生したある旅館で起きた殺人事件の被疑者。ヘリコプターによる護送中に爆弾によって爆破され以来行方不明になっていた。
「それで国枝博がなぜ海外で殺されたのだ」
「7月14日アメリカニューヨーク警察によると記憶喪失になった国枝をある資産家が引き取って執事にしたそうです。それから二か月後資産家の住む豪邸が鬼頭に襲われて皆殺しにされました」
浅野は前置きを終わらせて本題に入る。
「あなたたちをここに呼んだのは国枝博の足取り捜査を依頼したいから。この程度の内容なら探偵に依頼すればいいと思ったのだけど、この真実が事実なら探偵よりあなたたち警察に捜査を依頼した方が適任だと思った」
浅野は深呼吸してから衝撃の事実を告白する。
「私がこの事実に気が付いたのは9月16日だった。国際指名手配中の連続強盗殺人犯の被害者の中に逃亡中の国枝博を見つけたのよ。なぜ彼が海外に逃亡できたのかと思い暇な捜査員を使って捜査させたわ。国枝はあの爆風で記憶喪失になり、退屈な天使たちによって海外に連れてこられた可能性があることが分かったのよ」
合田は浅野の話を聞き頷く。
「なるほど。記憶喪失になった人間が海外に逃亡するわけがないから、確実に協力者がいる。海外逃亡をするなら偽装したパスポートが必要。そんなことができる連中で逃亡を手助けしそうな組織は退屈な天使たちだけだったということか」
浅野は頷く。
「この捜査を受けるつもりになったかしら」
浅野の問いを聞き神津は腑に落ちない顔をする。
「合田警部が関わった殺人事件の被疑者がニューヨークで殺された。国枝は退屈な天使たちによってアメリカに連れてこられた可能性がある。この事実は分かったがどうも納得できない。これは捜査一課の仕事ではない。公安の仕事だろう」
遠藤は神津の顔を見て微笑む。
「国枝は殺人事件の被疑者。そんな彼が海外で逃亡しました。殺人犯の行方を追うのは捜査一課の仕事のはずですよね。協力者については公安に捜査させています。あなたたちはヘリコプター爆破から彼が日本を出る前までの行方を追ってください」
「でもその捜査は所轄署が・・」
捜査に乗り気ではない木原と神津は浅野を白い目で見る。この前の青い水筒殺人事件は殺人事件を口実に捜査一課を利用した。彼女は警視庁を私物化しようとしているのではないかと二人は疑った。
二人の考えとは正反対の答えを合田は導いた。
「再捜査する。何か分かったら連絡する」
合田の答えに二人は唖然とした。合田たち三人は公安調査庁長官室を退室する。
その廊下で木原は合田に質問しながら出口に向かい歩き出す。
「合田警部。なぜ浅野公安調査庁長官からに依頼を受けたのですか」
「個人的な興味だ。それにあの事件を解決させる必要があるからどうしてもこの捜査をする必要があった。時間外労働になることも覚悟して付き合ってくれ」
木原と神津はため息を吐いた。
その頃公安調査庁長官室で遠藤アリスは浅野房栄公安調査庁長官に万年筆を渡した。遠藤はあることを質問する。
「浅野さん。どうして鬼頭が海外で殺害した日本人のリストをコピーしたのですか。国枝さんの話だけなら残りの9ページを省いてコピーすればよかったのではないでしょうか。エコロジーや経費削減ができていないように思えますが」
少しだけ言い過ぎたように遠藤は思ったが浅野は笑みを浮かべる。
「それもそうね。案外無駄だったかもしれない。でも面白いじゃない。無駄な被害者リストの中にこれから起きる退屈な天使たちの活動の関係者が紛れていたとしたら。根拠はないから無駄だったと思うけどね」