Side.016 それぞれの罠 Each trap
午前11時埼玉県と東京都の県境まで後10キロというところまでやってきたレミエルたちはイラついていた。車が異常なほど渋滞しているのだ。
「今日が土曜日だから渋滞しているのかよ」
レミエルの言葉を聞きラジエルは首を横に振る。
「いいえ。先週の土曜日に下見に行ったけどここまで渋滞はしていなかった」
「交通事故が起きたか、それとも警察組織の策略かのどちらかだろうな。この土曜日東京都と神奈川県で渋滞しそうなイベントは行われていないからこのどちらかだろうよ」
「そのどちらかの県でイベントが開催されると考えていいのですか。もしかしたら山梨県か千葉県で何かのイベントがあるかもしれないでしょう」
レミエルは煙草を吸う。
「それはないな。この一本道は東京都に繋がる道だ。山梨と千葉に向かうには遠回りになる。何かのイベントに向かっている人間が、態々東京を経由して山梨か千葉に向かうと思うか。この渋滞は警察の罠だろう。おそらくこの渋滞は警察の検問でもやっている証拠だろうぜ」
レミエルが得意げに推理を話すとラジエルはラグエルにメールする。
それから一分後ラグエルから返信メールが届いた。
『大丈夫。対策はありますから』
その頃ウリエルと鴉たちは持ち場であるポイントAで待機していた。ポイントAは空き倉庫だ。倉庫の中には五台のバイクとフルフェイスのヘルメットしかない。
そんな倉庫の中でウリエルはラグエルから送られてきたメールを読んだ。
「プランBに変更。襲撃を楽しんでください」
赤いネクタイの男はアタッシュケースを開ける。その中身は四台のスタンガンとボールが入っている。
「まさかこいつを使うことになるとは思いませんでしたよ」
そうして彼はウリエルの顔を見る。
「だって誰も殺したくないのだから。このボールを使うしかないでしょう」
彼女はハーレーダビッドソン・VRSCに乗り込む。鴉たちはヤマハXT400Eアルテシアに乗った。五台のバイクの集団は東京都練馬区に向かう。
その頃警視庁に設置した広域連続強盗殺人事件捜査本部に激震が走った。退屈な天使たちからの犯行声明が届いたのだ。喜田参事官は犯行声明を読む。
「無能な警察官へ。おもしろいことを教えてあげよう。東京都のどこかに爆弾を仕掛けた。鬼頭を逮捕したいそうだけど、爆破スイッチは鬼頭が握っているんだよ。逮捕した時点で鬼頭はスイッチを押すかもね。そうすればどこかでたくさんの人間が死亡するよ。被害者は警察を恨んで死んでいくんだ。大量に被害者を出さないためにも爆弾を探し出して解体した方がいいかもね。一つだけヒントをあげようかな。スイッチから発する電波は半径三キロという受信距離があるんだ。鬼頭は渋谷に向かっているよ。これだけのヒントがあれば爆弾を見つけることはできるよね。楽しませてね」
その犯行声明を聞いた千間刑事部長はある決断をして無線で呼びかける。
「渋谷から半径三キロ圏内に退屈な天使たちが爆弾を仕掛けた。警察官は全力で爆弾を探し出せ。爆弾が見つかれば爆発物処理班に伝えてくれ」
無線を切ると千間は呟いた。
「大丈夫だ。絶対に爆発はさせない。爆発物処理班はすでに現場となるエリアに待機してあるからな」




