6話
今、俺はあの日々を思い出している。
俺はいつものように祖父のもとで鍛錬をしていた。
パン!パパン!パン!
「ぬん!」
ブオッ!!
祖父の渾身の一撃が振り下ろされた。
一刀「くッ!ぉあ!」
何とか防ぎ、反撃にでるも
「あまいわ!」
老体とは思えない俊敏な動きで避けられ、そのまま回転し遠心力を乗せた逆胴。
ドゴォ!!
一刀「ひでぶ!」
あまりの衝撃に後ろへ吹っ飛ばされた。
いってぇ……これで骨が折れていない俺を褒めてあげたいよ。
「あまい……お主はいつも詰めがあまいぞ、かずピー」
かずピー言うな
いろんな意味で悶えている俺を見ながら祖父は
「以前から思うとったが、お主はどうやら一対一よりも多対一に適しておるように思う」
一刀「え?どうゆうこと?」
わき腹を抑えつつ。
「おぬしの戦い方を見ておるとな、一対一には向いておらんなぎ払うような動きが目立つ。
また周りを常に意識しておるだろう、かずピー」
だからかずピーやめろ。
しかし考えてみればそうかもしれない。
向こうの世界では一騎打ちにでもならない限り、多対一になることは必至。
しかもそこに弓やらで攻撃をしてくるもんだから嫌でも周りを気にしなければならない。
俺はずっと後方指揮をしていたがその分視野を広く持って見ていた。
そのせいか、どうやら自然とそうなってしまっていたらしい。
「一対一ならばそんなことをする必要はないからの。
なんじゃお主は大勢を相手にしようとしておるのか?」
一刀「えっと……両方?」
そう、両方だ。
いくら一騎打ちが強くてもそこは戦場。何が起こるかわからない。
故に、流れ弾とはいえ、春蘭は……。
俺がしばらく考え込んでいると
「ふむ。ならば二刀じゃ」
一刀「俺は一刀だ」
「名前のことじゃねぇわ。二刀流ということじゃ!」
一刀「イタタタタタ!痛いよー!ここに14歳特有の病気をこじらせた老人がいるよー!」
「たわけぃ!!」
ガスッ!!
一刀「つあ!?」
目!目ぇ!!
「全く失礼な。それを言うたら今まで教えてきた「居合い」だってこじらせてるじゃろうが」
そうか?ちゃんと競技あるし。
「なんじゃお主、剣道を習っておる気でいたのか?今教えておるのはわしの我流じゃぞ」
一刀「え?じいちゃん我流とかあんの?」
初耳なんですけど。
たしかにずいぶん激しい動きをするとは思ってたけど……
なんかじいちゃんがかっこよく見えてきた。
「わしはもとからかっこいい」
人の心を読まないでください。
「そしてイケメンじゃ」
殴っていいかなこれ。どうせ当たらないけど。
……どうでもいいが言っておこう、この人は齢80を超えている。
見た目と言動からはまったく見えないが。
一刀「というかそんなマンガやアニメじゃあるまいし、二刀流なんて──」
「まぁ見ておれ」
そう言うと、従来の日本刀とは違う、少し長めの得物を持ってきた。
そして、先ほどイケメンとかほざいていた老人とは思えない剣幕でその二刀を振るった。
明らかに老人の動きではない。
というより人ができる動きではない気がする。
向こうの世界に行ったときは皆が化け物に見えたが……
一刀「まさか俺の家系にも人外がいるとは……」
「何をぶつぶつ言っておる。ほれ、やってみぃ」
一刀「ん?あ、あぁ」
ってできるか!
「ほれ、こうじゃ。簡単じゃろ?」
いやそんな美術の先生が絵を教えているかのような言い方されても
「まったく。そんなんじゃからかずピーなんて呼ばれるんじゃ」
関係ない。
「まぁ冗談はさておき……」
一刀「冗談だったのかよ!」
「当たり前じゃ。いきなりできようものならそいつは化け物じゃ」
じいちゃんもね。
「まぁちゃんと教えてやるわい。……まったくめんどくさいのう(ボソッ)」
今めんどくさいって言ったよね。
聞こえてるからなこの野郎。
一刀「じいちゃん真面目にやってくれよ……」
「わかっとるわい。孫とのスキンシップも大事じゃろうに。冷たいのぅ……」
え?俺?俺が悪いの?
「まぁよい。まずは──」
なぜ俺がこのような事を思い出しているのかというと。
あの後、突撃命令が出た魏の武将たちが半ば俺を本気で殺そうとしてたんじゃないかというほどに
フルボッコにしたのは愛情ということで受け止めよう。なぜか孫策さんもいたが。
息も絶え絶え戻ってきた俺に
華琳「一刀、そういえば貴方春蘭の初撃を止めていたわね」
秋蘭「あれには私も驚いたぞ。一体どんな妖術に手を染めたんだ?」
染まってないから安心してください。
霞「確かにそうやな。一刀が春蘭の攻撃を止められるわけないし……」
え、1%たりとも可能性を考慮されないの?皆無なの?
風「風も驚いたのですよー。もしかしてお兄さんはお兄さんではないのですか?」
意味がわからない。
凪「そうですね。以前の隊長からは考えられません」
泣いてもいいですか?
真桜「せやなぁ。床の上やったら天下無双なんやけどね」
やかましいわ。
沙和「そういえば前より体も逞しくなってる気がするのー」
季衣「そうかなぁ?何も変わってないように見えるけど……」
あ、今の一番効いた。
流琉「そ、そんなことないよ!兄さまだって必死に修業したんだよ!」
あぁ、流琉。君はなんていい子なんだ。俺はその言葉だけで救われるよ。
たとえその表情が1%も信じていなくても
その言葉だけで救われるよ……あ、涙が。
桂花「あれは夢なんじゃない?」
春蘭「そうだ!こんなひ弱なやつに私の一撃が受けられるはずは無い!」
俺の修業の成果を無かった事にしないでくれ
稟「まぁ実際のところは聞いてみないとわかりませんね」
遠くで地面に「の」の字を書いていじけている俺に
華琳「で、どうなの?一刀」
あ~、涙がちょちょぎれるわ。
一刀「ああ、俺も三年間遊んでいたわけじゃないからね。
少しでも皆に追いつこうと思ってじいちゃんに鍛錬してもらってたんだ」
言葉のリンチを気にしていないかのように言った。
涙目で。
華琳「へぇ……鍛錬、ね」
華琳が何か思いついたようにニヤリと笑う。
……嫌な予感しかしない。
華琳「では、その鍛錬で得た自分の武には自信があるのかしら?」
ここで無いとか言おうものなら首を刎ねられそうだ。
こいつら刎ねるの大好きだからなぁ。
一刀「そ、それなりには戦えるんじゃないかな?」
あ、何かまずった気がする。
そう思い少し視線をそらしてみれば
霞、春蘭、凪、そしてなぜか桂花のとても輝いた視線。
ん、あれ?俺地雷踏んだ?
華琳「そういえば、もうすぐ洛陽で三国建っての武道大会があったわね」
うんうん!!と後ろで嬉々として頷いている4人。
華琳「自分の武に自信があるものが参加するのだけれど……一刀、貴方は?」
一刀「い、いえいえ!私ごときがそのような神聖な大会に出るなどと滅相もな───」
華琳「そう、参加するのね。楽しみにしているわ」
そんなことは一言も言ってないとおもうんですけどおお!
一刀「い、いや華琳。俺は───」
でないぞ、と言いかけたが
ニコォっと笑顔、の後ろに鬼を見た。
一刀「はい、私こと北郷一刀。武道大会に参加させて頂きたいとおもいます」
任意という名の強制を強いられ、俺は泣きながら頷いた。
ああじいちゃん。俺、じいちゃんよりも早く天国に行けそうな気がする。