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休止  作者: 御戊土山
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貴方ヲ想フ

現世side


俺があの世界から消えてもうすぐ3年が経つ。

皆は元気だろうか。華琳は……。

ちなみにこちらの世界での3年間、俺は遊んでいたわけじゃない。

またいつの日か必ず戻れる日が来ると信じて鍛錬、経済、いろんなことを学んできた。


祖父に剣術を教えてくれと土下座したときは本当に驚いていた。

それまで俺は仕方がないから、という理由でやっていたため剣術などどうでもよかった。

そんな俺が土下座して教えを請うもんだから驚きもするだろうが。


「はっはっはっはっは!うわhっははっはうぇっゲホ!ウェホ!!ゲボォ!」


一刀「じいちゃん!俺は真面目に……!」


「わかっておる。お主の目を見ればの。本気かそうでないかくらいわかるわい。

しかし、お主をそこまでさせる理由は何かのぉ」


少しの間。

大切な人を、大切に、大切に思い出して。


一刀「大切な人を泣かせたままなんだ。守られっぱなしだったんだ。

   ……だから今度は俺が皆を守ってやりたい。まだ何も返しちゃいないんだ。

   約束だって、たくさんしたんだ」


「ふむ。何があったかは知らぬがお主が本気なのはわかった。

 これからの鍛錬は生半可なものではない。覚悟しておけ」


一刀「じいちゃん……ありがとう!!」


俺はもう一度頭を下げた。


そこからは正に地獄。いやマジ。

毎日痣だらけになるわ筋肉痛になるわ失神するわでまぁ大変。それでも何とか着いていこうとした。


「ふむ。どうやら覚悟は本物のようじゃの」


一刀「おい!信じてなかったのかよ!」


「いやいやそういうわけではないが……まさかここまで必死になるとはの」


一刀「あたりまえだよ。どれだけの恩があると思ってるんだ……。

   こんな事で挫折してる場合じゃないよ」


「あいわかった。次のすてっぷじゃ」


一刀「別に無理して横文字使わなくてもいいのに」


「次のすてっぽじゃ」


一刀「発音よく言おうとして逆にのっぺりしたね」


そして構え。そこからの技の繰り出し方。踏み込み。体捌き。

いろいろな事を教えてもらった。

そんなこんなで今に至るわけなんだけど。


一刀「向こうの世界に帰ろうにも何も手がかりないもんなぁ……」


そう、この三年間片手間とはいえむこうの世界へ行くための手がかりを探し続けているのだが


一刀「突拍子もないからなぁ。役目かぁ、なんだよ役目って」


完全に手詰まり。はぁ……。

そうして鍛錬の帰り道。

何か一部だけ空気が変わったような気がした。


一刀「ん?なんだ?あれ」


人が立っている。

いや人が立っているのは普通なんだが……立っている位置がおかしい。


一刀「あれ……浮いてる?」


遠目で辺りが暗いためにはっきりとは見えないが、確かにそこに地面はない。

え?なに?まさかの怪奇現象?え?ちょ、勘弁してください。

流石に怖いので気づかれないようにそっと離れる。


「──────」


……え?今何か……?


「戻りたいか、あの世界に」


そいつはもうすぐ目の前にいた。フードを深くかぶっているため顔はわからない。

しかし。


「戻りたいか、あの世界に」


同じ質問。

待て。

待て俺、落ち着け。

あの世界ってやっぱり……向こうの世界……だよな?

突然舞い込んできた求めてやまなかった手がかりに出会えたかもしれないという興奮から動悸が激しくなる。


一刀「戻りたいって言ったら……どうするんだ?」


「戻りたいか、あの世界に」


聞く耳持たねぇ。

……ええい考えてもしょうがない!今までの3年はなんの為だったか思い出せ!

自力では何の手がかりも掴めなかったものを、今目の前にいるコイツが握っているかもしれないんだ。

あまりにも不確かな情報、状況。

でも俺はそれに縋るしかないんだから。


一刀「……ああ、戻りたい。皆の所へ戻りたい!」


俺の叫びを聞くと同時に、そいつの姿は消えてしまった。

霧が散っていくように、姿が薄れていき、やがて──

元から何もなかったように、夜の静寂と虫の鳴く音だけが残った。


一刀「……なんだよ。なんなんだよ!戻れるんじゃないのかよ!ふざけるな!!」


静寂に包まれていた場所に怒号。

しかし、何も変わらなかった。


一刀「なんなんだよ……。せっかく手がかりがつかめたと思ったのに。

   まさか夢とかじゃないよな。クソ……」


なんだったんだあれは。

もどりたいという気持ちが強すぎて幻覚でも見たか?

行き場のない怒りと虚しさを抱えて家に帰った。

そのままベッドヘダイブ。枕に顔を埋める。


一刀「……皆、元気かな。会いたいよ。・……はは」


おもわず嘲笑。

先ほどのフード野郎のせいでどうやら感傷的になってしまったらしい。

はぁ……無駄に疲れたな。

もう寝よう。

脱力感と虚無感を抱えながら、俺の意識は吸い込まれていった。



外史side


「……一刀」


独り呟く。

あいつが消えてもうすぐ3年になる。

あの宴の夜は本当に楽しかった。

争いが消えて、これからの平和を願って、それを守ると誓って。

皆があまりにもいい笑顔だったから言えなかった。

一刀が消えたことを伝えたのは翌日。

朝早くに皆を王間に召集した。


霞「こんな朝早くからなんやの~。ウチ頭痛い……」


真桜「せやでほんま勘弁してぇや。昨日飲みすぎてんから」


凪「こら真桜!華琳さまの御前だぞ!もっとシャキっとしないか!霞さまもしっかりしてください!」


真桜「いやそうは言うてもな、昨日どれだけ騒いだ思うてんねん」


霞「せやね、キッツいね」


うんうんと頷く二人に対し「はぁ」とため息。


季衣「ん~、ねむ~」


流琉「季衣!華琳さまに失礼だよ!」


桂花「ちょっと!あんた達!華琳さまに失礼じゃない!」


風「そういう桂花ちゃんも眠そうですねー。隈できてるし目が赤いですよー。」


凛「風、ややこしくなるから言わないほうがいいですよ」


春蘭「zzzzz」


秋蘭「姉者。立ちながら寝るなんて……」


各々が言葉を発していく中。


沙和「あれー?隊長がいないのー」


真桜「まだ寝てるんとちゃうのー?誰も起こしに行かんでええの?」


霞「なぁにおう!?ウチらがこんながんばっとんのに一人だけぐっすりとはええ度胸や!」


皆が一刀の姿が見えないことに気づき始める。

これから私は彼女達にとってとても残酷で、受け入れがたい真実を言わなければならない。

最後に彼を見送ったのは私だから。


すぅ……


息を吸い込み覚悟を決める。

皆の悲しみを受け入れる覚悟を。

一刀が消えたことを認める覚悟を。


華琳「静かになさい」


華琳の真面目などこか悲しげな声に皆が注目する。

そして。





華琳「一刀は消えたわ。昨夜、その天命を終えて」





シーン、と王間を静寂が包む。

皆華琳が何を言ったのか理解できなかった。


霞「なんやて?」


春蘭「あ、あの、華琳さま?」


華琳「一刀はもういないと言ったのよ。何度も言わせないで」


霞「華琳。さすがにその冗談はおもろないで」


華琳「冗談ではないわ。事実よ」


霞「やめや」


華琳「昨日の宴の最中に、私の目の前で消え───」


霞「おもろない言うてるやろがッ!!!」


桂花「ちょ、あんた!」


主人に対する、敵意をむき出しにした怒声。


霞「なんでそないなこと言うねん!!どっか隠れとんねやろ!?

  びっくりさせよう思うてんねやろ!?なぁ!さっさと出て──!」


華琳「黙りなさい!!」


霞「っ!」


華琳の本気の殺気に言葉が詰まる。


華琳「こんなつまらない冗談を言うわけないでしょう、一刀は消えたのよ……!

   私の目の前で消えたのよ!」


霞「せやかて……せやかてそんなんいきなり信じられるわけないやん!!一刀は……!」


彼女の悲痛な叫びに華琳はおもわず黙ってしまう。


霞「一刀はウチと約束したんや!!戦が終わって平和になったら旅しようって!

  二人で旅しようって言ってくれたんや!!一刀は約束を破ったことあらへん!

  どんな小さな約束だって守ってくれたんや!」


泣き声と叫び声が混じった声。

何かを堪えるように唇を噛み締め、華琳を睨みつける。


華琳「それでも、もう一刀はいないのよ。あなたが!……ッ!

   あなたたちがどれだけ泣いても!叫んでも!……もう、一刀はいないのよ」


華琳が涙を見せた。

春蘭や秋蘭だって一度も見たことのない彼女の涙。

その涙が一刀の消滅を真実だと告げる。


霞「そんなんありえへんやろ……!」


小さく呟き、拳を握り締め、歯を食いしばる。


霞「そんなんありえへんやろ!!!」


霞が泣き叫んだ。

凪、真桜、沙和。季衣、流琉、春蘭。

皆が涙を流した。


風「お兄さんが最近不調続きだったのは……」


風はいつもの調子でつぶやいた。

大粒の涙を流しながら、震える声で。

その日、城の中にはずっと彼女達の啜り泣く声が響いていた。



まったく……あなたが消えたせいでしばらくは大変だったんだから。


一刀が消えてからしばらく、魏はまるで魂が抜け落ちたかのような。

あのころの活気など微塵も感じさせず、まるで城までもが泣いているようだった。

あれから幾分かは立ち直ったとはいえ、以前の彼女達には程遠い。

表面上は元気に過ごしているが、いまだに夜にすすり泣く声が聞こえてくるのだ。


華琳「さっさと帰ってきなさい……バカ」


一粒の雫が頬を伝った。

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