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EP3 「黒いⅢ号戦車」

本小説に登場する地名や人物、兵器、全て現実の物となんら関係ありません。






「撃てッ!」


 声と共にトリガーを引く。本物はペダル式で、砲手が足で踏んでいた様らしいが、ゲームではそこまで再現はされていない。


 タカクラの操作に、Ⅳ号突撃砲は忠実に応えた。もはや慣れっことなった発砲の衝撃と轟音が、タカクラの5感を刺激する。ツンッと鼻を刺激する火薬の臭い。ベンチレーターが呻りを上げ、砲室の空気を入れ替える始めるが、これが中々に堪らない。


「命中ッ!次弾同じ」


「了解です」


 ヴリュンヒルデの声と共に、自動装填装置が作動。砲室後方に設けられたバズルから新たな高速徹甲弾が装填される。


 眼前のモニターに映し出されていた「ミラージュⅠ」


 共和国軍主力魔導胸甲騎兵は、黒煙が上げ、その場にガクリと膝をついていた。距離1500メートル。魔導障壁を持つミラージュⅠも、この距離であれば一撃で喰える。勝っている限り、我が身に災厄が訪れない限り、戦争ほど楽しい快楽はない。タカクラは、戦闘がもたらす心地よい興奮に身を委ねていた。


「これで何機目だ?」


「はい。先ほどの機体で15機です」


 タカクラの問いに、ヴリュンヒルデが応える。


 障害物が多く、2足歩行戦闘機械の機動力が阻害されるノルマン地方の戦闘は、背が低く、火力に長じる突撃砲にはベストな戦場といえた。葡萄畑やボカージュは、簡易な戦車壕と迷彩ネットを組み合わせるとにより、最高の隠れ蓑へと姿を変え、Ⅳ号突撃砲に先制攻撃権と云う恩恵をもたらす。


 タカクラとヴリュンヒルデは、この優位点を最大限に生かすことにより、スコアを稼いでいた。敵の数が多い時は攻撃を控える為(西部戦線初日の反省から3機以上には手を出さなかったのだ)、荒稼ぎとはいかないものの、こちらは損害無しの一方的な戦闘の為、実入りは良いといえる。繰り返される戦闘により、ミラージュⅠの装甲性能も、ほぼ理解出来ていた。


 2000メートル以内であれば、一撃で仕留められる。それ以上になると魔法障壁に阻害され、単発での撃墜は難しかった。敵が2機なら最大射程から攻撃。1機なら1500メートルで確実に仕留める。500メートルの接近は、魔法障壁が操るシュバリエの能力により、性能が上下する為の安全マージンだ。いくら高レベルのシュバリエとはいえ、豆腐を煉瓦に変えることはできない。


 タカクラとヴリュンヒルデは、自分達の設定した交戦規定(ROE)に忠実に、戦闘を続けていた。先ほどの魔導胸甲騎兵も単機突出していたものを狩ったのだった。


「大分慣れてきたな・・・西部戦線異状無しという所か」


 派手さは無いものの堅実に戦果を挙げる。地味だが、渋さの光る戦闘を自画自賛するかの様にタカクラは、言葉を漏らした。


 戦場マップを穴が開くほど眺めて、狩場を設定し、待ち伏せポイントを決める。敵の進路や予想戦力、自分の撤退路や予備陣地の設定など準備9割の戦術であったが、タカクラは特段、そのやり方に不満を覚えていなかった。待ち伏せが空振ると、穴を掘っただけでゲーム終了となってしまうことさえあったが、重度の戦車狂であるタカクラにとっては、戦車壕を掘ることも、枝木や偽装ネットで戦車をドレスアップすることさえ楽しかった。


「マスター、油断は禁物です」


 そんな、タカクラのことを、彼の相棒を務める補助AIヴリュンヒルデが諌める。


「我々のレベルも向上を見せていますが、それは敵にも云えることです。特に能力特化型の場合、敵戦力の予想が難しい」


「ああ。そうだな」


 ヴリュンヒルデの言葉に、タカクラは素直に頷いた。彼女の言っていることは間違ってはいない。


 ゲーム内における性能は、主に3つの要素で決まる。純粋な乗機の性能と、それを操るパイロットの能力値、スキルの3つだ。ヴリュンヒルデの云う能力特化型というのは、レベルアップ時に振り分けることができるボーナスポイントを一点に集中振りすることにより、局地戦闘における優位を狙ったタイプのことを差していた。


「防御特化型や回避特化型、特に回避型と私達の相性はよろしくありません」


「近づかれた時点で負けだからな」


 パイロットの能力値は砲戦、格闘、特殊、命中、回避、防御の6つのカテゴリに分かれている。スタート時は全ての数値が100から始まり、プレイヤーの戦闘スタイルに準じた形で、レベルアップに併せて成長していく。その基本成長に加算する形で、ボーナスポイントを自由に振り分けることができるのだ。


 まだ、サービスの開始からそれほど時間が経っていない「PANZER VOR!」では、極端な高レベルプレイヤーは現れていないが、極端なプレイや能力特化を行っているプレイヤーにはそろそろ、その恩恵が現れている頃だった。具体的に云うと防御100のプレイヤーが操る機体と防御力110のプレイヤーが操る機体では、既に単純防御力で1.1倍の差がある。これにプレイスタイルやスキルが合わさってくると、その数字は、決して無視できないものになってくる。現時点で、防御偏在なプレイヤーなら通常プレイヤーの2割から3割は装甲が厚い可能性さえあった。


「俺達は、命中と砲戦は良く伸びているが、他は並み以下だし」


「突撃砲ですので・・・」


 ヴリュンヒルデのトーンが少し落ちる。


 無論、AIにも能力値はある。だが、AIにはボーナスポイントが設定されて無かった。あくまでもプレイスタイルで成長させていくしかない。スキルに機動砲戦系スキルである躍進射を持ちながら、タカクラのアンブッシュ特化戦術により、ヴリュンヒルデの能力もまた偏ったものに成りつつあったのだ。


「下手に短所を補うより、長所を伸ばした方が勝率は上がる。おまえが気にすることはないよ」


「ありがとうございます。マスター」


「敵も特化型ならこちらも特化型だ。だとすれば、後は純然な機体性能と戦術で決まる。油断さえしなければな」


 タカクラは、油断するなと、先ほどヴリュンヒルデが言った言葉を笑いながら返した。


「マスター・・・」


 ヴリュンヒルデの苦笑いが車内に小さく響く。


「さて・・・会話はここまでだ。仕事だぞ。ヴリュンヒルデ」


「はいッ!」


 モニターに映る鋼の巨人の姿。タカクラの声にヴリュンヒルデが応える。

 2機のミラージュⅠが、タカクラ達の乗るⅣ号突撃砲の長く鋭い咢に、片足を突っ込もうとしていた。






 タカクラは信じていた。


 突撃砲とはいえ、自分達の戦術こそが、「PANZER VOR!」における戦車運用の最的確であると。

 だが、戦術的に正しくても、例え、最的確であっても、それは戦車の本来の姿ではない。だからこそ彼は、その姿に感動し、興奮した。


 己の目指す理想の姿。ソイツらの登場は、まさにタカクラがトリガーを引きかけた、その時だった。


「撃・・・」


「待ってください!マスター」


 キルゾーンに、足を踏み入れつつあるミラージュⅠの姿。

 ヴリュンヒルデの声が、ギリギリの所で、トリガーを引きかけたタカクラの指を止める。


「友軍です!」


「何だとッ!?そんな物・・・何処にも・・・」


 モニターに映し出される2機の魔導胸甲騎兵。それ以外に何も・・・、


「戦車です。10時の方向。タイプ識別・・・Ⅲ号J型スペシャルです。2・・・いや、3両います」


 タカクラ達の戦闘スタイルでは、基本的に戦闘中の電子マップの管制は、ヴリュンヒルデが行っていた。これはⅣ号突撃砲に、レーダーはないというタカクラの拘りでもあったが、理由は兎も角、そのヴリュンヒルデが、ボカージュの奥に隠れていた友軍戦車の突撃を発見したのだった。実際の戦闘とは違い、MMOである「PANZER VOR!」では、例え善意からの救援であったとしても、敵機の横取りは、あまり良いマナーとは見なされない。


「レーダー画面を左パネルへ。照準補正任せる」


「了解しました」


 いきなりの友軍、それも戦車の乱入に、タカクラは照準作業を、ヴリュンヒルデに任せ、レーダー画面を確認した。


「・・・マジかよ」


 タカクラの口から驚きの声が漏れた。


 双方の距離は、2000メートルほど。交戦距離としては悪くない。Ⅲ号J型スペシャルは、60口径50mm砲を装備している。口径こそⅣ号突撃砲が装備する7.5cm砲に劣るものの、その長砲身から放たれる50mm砲弾は、現在の戦場レベルでは最高クラスの攻撃力を持っている。驚く所は、そこではない。驚いているのは、レーダー画面上、双方の輝点が接近していることだった。


 伏撃こそが命。伏撃こそが、戦車唯一の戦術と考えていたのに・・・タカクラ自身も嫌いでは無いが、伏撃と突撃と聞かれれば、それは突撃を選びたい。だが、それが不可能だからこそ、伏撃を多用していのだ。


「ヴリュンヒルデ。回線開け!Ⅲ号戦車の無線傍受」


 敵側の無線傍受は、特別な装備やスキルが必要となるが、友軍陣営であれば無線を繋ぐことができる。指示を出しながら、タカクラはハッチを開け、外へと上半身を付き出した。胸にかけた双眼鏡に目を当てる。Ⅳ号突撃砲の外は、魔導胸甲歩兵のたてる大地を蹴る轟音が響き渡っていた。


 ・・・クソッ!見えない。車体の低さが仇となり、Ⅲ号戦車の動きが見えない。タカクラの視界の高さは、Ⅳ号突撃砲の砲室上とはいえ、3mほどでしかなかった。これでは、ボカージュや建物に覆われた、このノルマン地方では、2足歩行型戦闘機械ならともかく、車体の低い戦車の機動を正確に捉えることは難しい。


「黒1より、カクカク。左の奴から殺る」


「黒2了解」


「黒3了解」


 男達の声が、タカクラのヘッドセットに流れる。


 魔導胸甲騎兵の機動音に混じり、鋭く甲高い砲声が響く。砲声と立ち昇る砲煙を頼り、双眼鏡を向けるが、やはり戦車の動きが、良く分からない。


「駄目だッ!」


 目視確認を諦めたタカクラは、車内へと体を滑り込ませた。そのまま、レーダー画面を確認する。


「躍進射・・・それにしても近い」


 交互に進むⅢ号戦車の輝点。レーダー画面の輝点を見ながら、タカクラはⅢ号戦車とミラージュⅠの戦いを脳裏に描いた。


 間隔の狭い雁行陣を敷きながら、ミラージュⅠに突撃を敢行するⅢ号戦車群。時折、Ⅲ号戦車の輝点が止まるのは、一時停車し、砲撃をかけているからなのだろう。戦車という物を良くわかっているプレイヤーだ。現代のMBTならともかく、旧時代の戦車に、高度なFCSや砲安定装置の装備は無く、走りながらの砲撃は、まず命中が望めない。


 Ⅲ号戦車に向かっていた、1機のミラージュⅠが動きを止める。60口径50mm砲が、魔法障壁を撃ち抜いたのだ。


「見ろ。ヴリュンヒルデ。戦車が・・・戦車が、正面からロボット共を蹴散らしている・・・」


 3対2。確かに数的優位はある。だが、10mを超す魔導胸甲騎兵からして見れば、小型のⅢ号戦車などサイズ的に大型の犬ほどでしたない。


「黒1から黒2へ。足を止めた奴に、トドメを刺せ!」


「黒2、了解!」


「黒3、停止ッ!撃てッ!前へ!」


 流れる様な機動。痺れる・・・タカクラは、言い知れぬ感動が、我が身を包むのを感じていた。


「黒1、停止ッ!撃てッ!前へ!」


 止まり、撃つ。そして、走り出す。ただ、それだけなのに・・・見知らぬ戦車ユーザー達の雄姿が、タカクラの胸を打つ。


「躍進射に次ぐ、近接砲戦。後は、一気に押しつぶす」


 タカクラの脳裏には、見えないはずのⅢ号戦車とミラージュⅠの戦いが、はっきりと映し出されていた。

 距離400・・・300。もはや勝負は決まっていた。3対1。数的優位に併せ、この近距離で、60口径50mm砲を防ぐ術を、ミラージュⅠは持たない。


「彼らなら同数でも勝っただろうな・・・」


 それほど、3両のⅢ号戦車の動きは、際立っていた。もしかしたら、中の人は現役なのかもしれない。


 最後のミラージュⅠが動きを止め、


「黒3、敵撃破ッ!」


 勇気ある猟犬の勝鬨の声が上がる。


「ヴリュンヒルデ・・・俺達も頑張ろうな」


「はい。マスター」


 戦車の持つ可能性。


 パーティ戦と個人の戦い方は違う。だが、気付かぬ内に、自分で己の足に枷を嵌めていた。タカクラは大きく息を吐いた。




「獲物は奪われたが・・・今日は良いものを見せてもらったよ」


 正面モニターに映る二条の黒煙(凱歌)。タカクラは、姿見ぬ戦友達に、静かにエールを送るのだった。






TIME:1425 AERA:ノルマン地方北部ヴィレル・ボカージュ


撃墜:ミラージュⅠ 1機

消費:7.5cm高速徹甲弾1発

報酬:20000ライヒスマルク




タカクラ:能力値情報


レベル13

能力値

 砲戦:125 格闘:101 特殊:102 命中:111 回避:100 防御:105

スキル

 伏撃:8 遠距離砲戦:10 零距離砲戦:3 陣地防御:8 ネゴシエーター:3





ヴリュンヒルデ666:能力値情報


レベル13

能力値

 砲戦:120 格闘:100 特殊:111 命中:114 回避:100 防御:102

スキル

 伏撃:7 砲戦支援:10 車体制御:10 躍進射:1 魔弾の射手:2




「PANZER VOR!」システム解説


・レーダーの扱い。

 友軍陣営に関しては、無条件での表示が可能。任意で表示を切ることが出来るが、その場合、友軍誤射を受けても保障対象外となる。敵陣営の場合、スキル、装備効果又は視界内に収めることにより、レーダー画面に表示される様になる。しかし、敵機が視界外に出た場合や、スキル又は妨害装置等の効果により、レーダー表示が不可能になる場合がある。










何も考えず勢いだけで読んでください。感想等もよろしければ・・・。

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