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『いつの間にかタイムループで同じ日に閉じ込められたオレ、不思議な女の子とも出会うしこれからどうなっちゃうの!?』とか、どう?

作者: 浜田


・タイムループもの

・洋画でよく見かける主人公にめっちゃ協力的なギークの友達

・作中でタイトル回収


全部やりたかった結果こうなりました。



 ばっと勢いよく目を開き、はじけるように起き上がった。耳のすぐそばに心臓があるかのようにどくどくと鼓動の音が煩い。起きたばかりなのに先ほど全力疾走していたかのように息が切れている。いや、ある意味ではついさっきまで全力疾走をしていたのだ。

 ベッドの横のサイドテーブルを見る。シンプルなデジタル時計は8月の10日、6時半を刺していた。いつも亮太が起きる時間。もう何十回も見た、この表記。


「あ〜〜〜〜〜〜〜〜! クッソ、また8月10日かよ!!」


 朝から大きな悪態をつきながら、亮太はベッドから起き上がり手早く動き出した。

 加瀬亮太。サッカー部所属。現在、この8月10日を何度も何度も繰り返しているという悩みを除けば、どこにでもいる一般的な男子高校生だ。




 こんな事になってしまった原因に、亮太は全く覚えがない。一番最初の8月10日は何事もなく部活のために学校に行き友達とふざけ合い監督にたっぷりしごかれへろへろで帰宅し母が作ってくれたトンカツを美味しい美味しいと平らげご機嫌で眠りについただけだ。それなのに、次に起きたらまた8月10日を迎えていたのだ。朝起きて「これ昨日と同じニュースやってない?」とテレビを指差して聞いた時の、母の不思議そうな顔といったら。

 最初はドッキリかと思ったが、それにしては大掛かりすぎる。じゃあ夢かと思ったが、夢にしてはトンカツが美味い。変だなぁと首を傾げながら何回も何回も8月10日を繰り返して、最初こそ子供の悪戯でも食らったような気持ちでなんだかおかしく笑っていたが、現実逃避してもいられないとようやく脳が事態を飲み込み現実を受け入れたところで、亮太は冷や汗が止まらなくなっていた。ちなみに、彼が思考を切り替えるまでに7日の時間を費やし、7日間毎日夕飯のトンカツを平らげていた。図太いんだか大物なんだか。

 事態を真剣に受け止めたその後、部活の友達に相談する両親に相談する監督に相談する学校の先生に相談する幼馴染に相談するなどなどなど手当たり次第に「オレはなぜか8月10日を繰り返していて8月11日にいけないんだ!」と自分の現状を伝えまくったが、誰もが「疲れてる?」「毎日暑いしね」「今日はゆっくり休んでいいからな」「もしかして悩んでる? 相談に乗るよ」と優しく宥められた。クソッ! 誰も本気にしてくれないっ! 幼馴染にいたっては「リフティングしすぎて頭馬鹿になった?」と辛辣な言葉を吐かれた。馬鹿野郎ッ! もうお前とゲームしてやらねえぞっ!


「でも昨日の……いや8月10日だけど……昨日の8月10日、でいいのか? とにかく、いつもと違ったぞ!」


 手早く着替え部活の友達に今日は部活不参加の連絡を送り、母の作ってくれた朝ごはんをしっかりおかわりまでして完食し、家を飛び出した。真っ青な空と刺すような日差し、息苦しいくらいにむっとするような暑さの中、そんなの全く構わず亮太は愛用の自転車に跨り元気よくペダルを踏み込んだ。

 猛暑どころか酷暑の日差し、遮るものは何も無い自転車。当然のようにぶわっと汗が吹き出したが、気にしない。何せ昨日の8月10日はいつもと違ったのだ。


 もう何十回目かの8月10日。本当ならとっくに終わってるのにいつまで経っても終わらない夏休みを繰り返す亮太の前に、白いワンピースを着たやたら色素の薄い女の子が現れたのは、昨日が初めてだった。

 とにかくじっとするより行動あるのみの亮太が学校に続く道へとペダルをこぎ出した時、ふっと、まるで映像か何かのように急に目の前に現れたのだ。もう少しで轢きそうになり、急ブレーキをかけながら「危ない!自転車はすぐには止まれないんだ!」と大声で警告しつつ微動だにしない少女の数センチ手前でしっかり止まれた加瀬亮太、ポジションは反射神経の高さが求められるGKである。


「自転車はすぐには止まれないから、目の前に立つと危ないぞ!」


 再び注意の言葉を目の前の少女に投げかけたが、彼女はぼんやりとした表情で亮太の言葉に何も反応を返さなかった。

 しかし、その右目からつ…と一筋の涙が流れた事を見逃す亮太ではない。ぎょっとして、「ご、ごめん!責めてるつもりじゃなくて!」と慌てて弁解を始める。

 年は16〜18くらいだろうか。おそらく亮太とそう変わらない。白いワンピースが真夏の日差しに照り返されて眩しく、ほっそりとした手足の白さと相まって、輪郭がぼやけて目の前にいるのに幻のように感じる。不思議な少女だった。

 声をかけても一言も発さず、ただじっと亮太の声を聞き続けている。焦りに焦って無い語彙をふりしぼり、本当にごめん怒るつもりは無かったただ危ないと注意したかっただけで──しかし暖簾に腕押しの反応に、段々と言葉が尻すぼみしていく。

 そうして亮太はやっと、「こんな子今まで見かけたっけ?」と疑問に思ったのだ。


「きみ、この辺に──」


 住んでる子なの、と聞く前に。

 気が付いたら、冒頭の自分の部屋で目が覚めたのだ。

 当然こんなぶつ切れの映画のように自分のベッドで目覚めるのは、初めての事だった。


 とにかくあの子は今までと違った。もしかしたらもっと違う事が増えてるかもしれない。昨日までの8月10日と違うところを探しながら、もう一度あの子に会ってみよう。上手くいけば、8月10日から抜け出せるかもしれない!


 ペダルをこぎながら亮太はアスファルトで舗装された道路を走る。もう何十回も繰り返した学校へと向かう道を走り、何かいつもと違うものはないかと辺りをキョロキョロしながら。ちなみに昨日誤って少女を轢きそうになったので、今日はいつもより慎重な運転を心がけている。

 そんな運転だったからか、昨日までだったらもう少し先で出会える幼馴染に昨日とは違うタイミングで出会う事になった。


「亮太おはよー……何でそんなノロノロ運転してんの」


 コンビニの袋を下げ誰もが疑う事なく今から家に帰る途中です、といった風貌の、眼鏡をかけた少年。

 幼馴染の日三重豊は、亮太がオレは8月10日をくり返している! と言った際「リフティングし過ぎて頭馬鹿になった?」と辛辣な言葉を投げ掛けてきたその人だ。その言動に見合ったふてぶてしさで妙な様子の亮太に臆する事なく、ズカズカと歩いて行き若干冷めた目線を向けていた。


「おはよ豊。実はさぁ──」


 状況を説明しようと言いかけて、豊が下げているコンビニ袋をふと見やる。一瞬考えて、いやもしかしたらと思い直し再び口を開いた。


「なあ豊。コンビニで何買った?」

「………え? 実は、の続きは? 何言いかけたの」

「いいから! 答えて!」

「ぇえ〜……。変なやつ。まあいいや。えーっと、」


「「コーラと鮭おにぎり、口直し用のプリン」」


 全く同時に同じ言葉を口にした事で、豊は目を見開いた。が、「うーんやっぱここは同じかぁ……」とがっくりと肩を落としていた亮太は気付けなかった。

 コーラとおにぎりという妙な組み合わせは、亮太お気に入りの食べ合わせだ。その食べ合わせの良さを熱弁し「騙されたと思って一回試してみろって!」とプレゼンしたのが8月9日だった。その時の豊は「絶対お茶が一番いいって!」と返していたが、別にやらなければやらないで亮太は怒らないのに、その次の日にはコーラとおにぎりを試すために朝からコンビニに行っている辺り、なんだかんだノリの良い男である。

 そう、いつもの豊なら絶対に買わない組み合わせ。袋の中にそれらが入ってるなんて当然分かるはずがない。しかし8月10日を何度も何度も繰り返している亮太は、コンビニの袋に入ってるものが何なのかとっくに知っているのだ。何せこのやり取りを何十回も繰り返したのだから。


「くっそ〜…昨日の今日でいつもと違うタイミングで会ったし、何か変わってるかと思ったんだけどなぁ……」


 まあいい、今回の8月10日はまだ始まったばかりだ。まだ試してない探してないところはわんさかある。あの女の子にも会ってないし!

 そうだそうだと自分に元気を送り、亮太はぱっと顔を上げて幼馴染を見やる。「ごめん、何でもないんだ! 教えてくれてありがとう! じゃあオレ、行くから!」と手短に挨拶を済ませ、再びペダルをこぎだこうとした。


 したのだが。

 それに予想外に待ったをかけたのは、他ならぬ豊だった。


「亮太、もしかしてタイムループしてる?」


 信じられないといった顔の幼馴染から、知らん言葉が出てきた。


 …………。

 ……………………。

 たいむるーぷって、何?


「たいむるーぷって何?」


 思った言葉をそのまま口に出したら、豊は突然亮太の肩を掴み、火が付いたかのように話し始めた。


「タイムループ! 同じ時間を何度も反復する、SFあるある設定でお馴染みの…いやお前こんな説明じゃ分かんねえよなぁ! ある時間から先に進まなかったり、同じ日を何回も繰り返してないかって聞けば分かる!?」

「えぇっ!?」


 今度は亮太が信じられないと目を見開いた。 全くもってその通り。亮太はずっと8月10日を繰り返している! ていうか!


「オレ何度も豊に今こんな事になってんだよって説明したのに、お前一回も信じなかったじゃん! なんで急に!?」


 何せ「リフティングし過ぎて頭馬鹿になった?」とまで言ったのは目の前の豊だ。その豊から、亮太が何度も何度も何度も何度も説明した言葉が飛び出してきたのだ。信じられないにも程がある。

 が、豊はマシンガンのような反射で言い返してきた。


「急に『オレ、タイムループしてるんだよね〜』とか言い出したらまず精神状態心配するわ当たり前だろ! お前どーせ自分の状況を言うだけ言って状況証拠とかループしてるからこそ知ってる情報とか何も出さなかっただろ! 信じられる訳ねえだろそれじゃあ!」

「ぅ、え、言われてみればそうだったかも…? えっ、伝え方駄目だったのオレ……?」

「あとさっきみたいな『今日の夕飯何だった!?』『何急に。えーっと』『『豚骨ラーメン、替え玉付きで』』的な会話オタクが一度は口にしてみたいと妄想するタイムループ専用台詞過ぎる、でもサブカルとは無縁一軍陽キャのお前がオタクの妄想あるあるな会話知ってるはずないし言う訳ない! なのに口にしたなんて絶対おかしい! あり得ない! だからお前がタイムループしてるかって聞いたんだよ俺は!」

「なんて?」


 知らない呪文をワッと投げ掛けてくるのやめてくれ。オレ国語苦手なのに。


「ちなみに、他に変な事とか起こった?」

「え? えーっと、昨日の8月10日に知らない女の子に会ったんだ。この辺では見かけたことない白い服着た、なんか全体的に白っぽい感じの……」

「不思議系ヒロインまでいるのかよ完璧ッ! タイムループを主軸夏が舞台の青春ボーイミーツガールジュブナイル映画が始まるやつじゃん!! いや待てよ夏の真っ昼間に白い服着た女の子ってホラーゲーム系ループの可能性もあるか…?」

「なんて?」


 もしかしてこいつ全然オレと話をする気なかったりする?

 少々、いやかなり、亮太は目の前の豊と会話するのに疲れてきたのだが、幼馴染は止まらない。お前そんなにテンション上がる事あったんだ、と思うくらいにはいつものだるっとした雰囲気から一変、頬を紅潮とさせ大興奮といった様子だ。


「お前が繰り返してるのって今日だけ? それとも8月全部とか、期間ある?」

「8月10日だけ。8月11日にどうしても時間が進まないんだ」

「おっけ。何回くらい繰り返してる?」

「ぇえ? 途中から回数数えるのやめちゃったんだよな…。ぇ〜っと、100回くらい…?」

「亮太は数字がデカくなると雑に数を盛る癖がある。だから大雑把に50以上100未満ってとこかな。うわループ数えぐ、よく病んでないな。偉いぞ」


 褒められたのだが、自分の把握してなかったあんまりな癖を指摘されて嬉しさよりも若干の恥ずかしさが勝つ。「そんなに数盛ってますかね、オレって…」とごにょごにょとした口調で豊に尋ねるが、当の本人は聞きやしない。ポケットからスマホを取り出し、何やらすごい勢いで入力し始めている。


「今日で問題解決は多分、いや絶対出来ないからまたループしてもらうけど、めんどくせえだろうけどそのたびにさっきの会話俺として。俺なら間違いなく食い付くから。あとタイムループして気付いた事とかあったら教えて。全部まとめる。……しまった、まとめても記録したものを次の8月10日に持っていけない! いや待て。亮太、タイムループ中に怪我しなかった?」

「した!」

「まだ治ってない?」

「そりゃあ、転んだ傷が一日二日で治る訳ないだろ」

「朗報! 身体についたもんなら次のループに持ち込み可能! 分かった事は全部お前の身体に書きゃあいい!」

「すごいこといいだしてる」


 幼い少年のようにはしゃぐ豊に対して申し訳ないが、亮太は完全に引き始めている。普通だったらその前の段階でテンションおかしい早口ギークに全力で逃げ出すところだが、ここまで付き合っている亮太はやはり図太いのか大物なのか。

 改めて、といった風に眼鏡を掛け直し、豊は「じゃあ一度俺の家行くぞ、説明しなきゃならない事が沢山ある!」と亮太の肩を叩いて回れ右を促す。部活行ってる場合じゃないから全然いいんだけど、なんていうか。


「なー豊ぁ。お前すっげえ楽しそうじゃね?」


 ここ数年でもなかなか見かけない程に楽しそうな様子の豊に、亮太は流石に拗ねたような声が出る。そうは見えないかもしれないけど、こんな意味の分からない状況になってて結構しんどいんだぞ。

 その声音に察したのか「お前が大変なことになってるのにごめん」とすぐに謝罪の言葉を述べるが、「でも絶対問題解決に協力するから、ちょっとだけはしゃがせて」と悪気もなく続けるものだから、流石の亮太もイラッとしたし、ふざけんなよと怒りたくなった。お前じゃなかったら今この場で縁切ってるところだぞ、と言おうとして。


「タイムループに巻き込まれた主人公を手助けする親友ポジとか、オタクがなりたいポジNo.1なんだもん!」


 そうはしゃぐ豊の言葉を耳にし、思わず亮太は二の句が継げず目を丸くする。

 いや、言っている事は相変わらず何を言ってるのか分からない。呪文にしか聞こえない。オタクがなりたいポジってなんだ。サッカーに例えてくれないと亮太はピンと来ない。

 謝ってはいるが結局タイムループとやらに巻き込まれている亮太を使って楽しんでいる事には変わりがない。というか開き直ってる辺り本当にどうかと思う。いつもは教室の片隅で本を読んでクールぶってる癖に、昔から人を使って遊ぶ事を心底楽しむ畜生なところがあるのだ、こいつは。


 だけど。

 豊があまりにも当たり前のように口にした「親友」という言葉が、自分でも意外な程胸に響いて、ほっとして、燻っていた不満がふっと軽くなったというか。

 

 この繰り返す異常な日々の中で、親友、という味方を宣言する言葉が、とても嬉しかった。


「………とにかく! もうこんな意味の分かんない状況なるべく終わらせたいんだ! 絶対に最後まで協力しろよ!」


 怒る代わりに語気を強めてそう言う。実際、自分一人では今の状況を解決できる見通しは立ってないし、何より一人でも「お前の言う事を信じるよ」「一緒に解決しよう」と返してくれる存在がいてくれた事に、亮太はかなり救われていた。

 途中から何回8月10日を繰り返しているのか数えるのをやめたのは、本当は怖くなったからだ。積み上げた数だけ同じ日を繰り返している自分を自覚してしまう事を、亮太は本能的に恐れたのだ。


 あ、やばい。オレ結構ギリギリだったのかもしれないな。


 こっそり胸を撫で下ろす亮太に豊は「当たり前じゃん!」と元気よく返してくる。

 相変わらず新しいゲームを前にしたような、楽しそうな顔。しかしまあ、それが少し頼もしい。長々と早口で捲し立てる幼馴染の後頭部を見ながら、こいつだったらなんとかしてくれるという根拠は無いのに揺るがない信頼のようなものが芽生えてくる。そういえば、こんな気持ち久しぶりだったかも。


「高校生活夏休み中に親友がタイムループ、8月10日ってのも意味がありそう、しかも色素薄めの不思議系ヒロインまでいる! 映画だったら履いて捨てる程よく見た設定だけど、体験するとなると全然話が違うよなぁ! こんなのライトノベルじゃん! タイトルは、今流行りの長いやつで付けるとしたら──」


 その本当に長いタイトルに、思わず「だから呪文言うのやめてぇ!?」と大声で叫んでしまったのだった。




映画を観に行くと次回作の予告が流れますよね。あの短い時間ですごい数の映像や断片的なストーリーに惹きつけられ、でも結末までは語られないので「これはこの後どうなるんだろう。観に行くか」となるのが好きなので、そういう雰囲気を目指しました。

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― 新着の感想 ―
導入の勢いと会話のテンポがとにかく気持ちよくて、一気に読まされました。 タイムループに慣れきって雑になってる主人公と、急にギーク全開で覚醒する親友の対比がすごく楽しいです。 特に、主人公が限界ギリギ…
とっても面白かったです。続きが気になるお話ですね。
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