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哀れ夢雀

〈十一月一足早く小春かな 涙次〉



【ⅰ】


POMの助、カンテラ一燈齋事務所に遊びに來てゐた。夢雀を連れての來訪は初めての事である。夢雀、邊りを見回して、「こらまた、結構な事務所ですなあ」。彼は夢太夫の屋敷の二つ目部屋に起居してゐる。「師匠の襤褸屋敷とは大違ひだ」-POMの助、「そんな事云つてると、師匠にチクるぞ」。「あ、今のなし、なし」慌てふためいてゐる。悦美「うふゝ、普段から面白いのねえ」-「こらだうも。美人のお上さんもゐなさるし」-「うちのとは大違ひ、か?」-「あゝ、今のも取り消し、取り消し」



【ⅱ】


ぴゆうちやんが* 自慢のチョッキを洗濯してゐた。ちやんとネットに入れて、エマール(お洒落着用洗剤)で洗ふのである。悦美「今日は何のご用事?」-夢雀、「いやこいつがね、お宅の坊つちやんみたいに、羽織りが慾しいつて」-「厚かましいやうですが、他で頼むと髙く付くんで」-「あら、ちやんとお代は頂くわよ」-「如何ほど?」-「2萬でいゝわ」-「そりやお安い!」-「こいつ鸚鵡の癖に、贅澤云ふんですよ」-「五月蠅いなもう。俺はお前なんか見捨てゝ、ピンでやりたいんだ。『笑点』出るんだ。その為の羽織りだよ」-「え゙、おいおい見捨てないでくれよ、頼むから」



* 當該シリーズ第33話參照。



【ⅲ】


で、話は飛んでルシフェル。前回、時軸の「和合空間」にやられて、身も心もぼろぼろ。「あゝ、死ぬ前に三笑亭POMの助の藝を間近に見たい。* あの『魔性のネタ』を」-「ルシフェル様、死ぬなどゝは-」-「それもこれもお前らが無能なせゐだ」-「は。如何にも」ルシフェルの周りにはイエスマンしかゐない。「それでは、POMの助とやらを連れて參りますので、暫しお待ちを」-「お前、本氣か? カンテラが怖くはないのか?」-「は。一命に代へても」



* 當該シリーズ第143話參照。



※※※※


〈冬立つ日ぢつと待つてはゐてをれぬ今日のポストはそれに盡きるかも 平手みき〉



【ⅳ】


とは云へ、實際にはカンテラ一味の係累の者には手出しゝたくはない。この【魔】、ない知恵を振り絞つた。然し、名案と云ふ程のものは、ちつとも浮かばなかつた。「仕方ない。蘇生を夢見て、肉彈戰と行くか」-で、カンテラ事務所前まで來た。今回はルシフェル様の過分のお引き立てあり、こゝ迄來たが- が、ロボット番犬タロウに吠えられ、たじたじ。「表がやかましいな。一丁あたしが」-と夢雀。これがいけなかつた。無名の【魔】、彼に憑依したのである。



【ⅴ】


「あいつ、やけに手間取るな」-カンテラが出て來た。「あ、カンテラさん、お邪魔してをります」-「それはいゝが、きみの相方、【魔】にやられてるぞ」-「なぬ?」。カンテラには全てお見通しであつた。だが、これは解決する迄もない。「奴は僕=POMの助にとつては、かけがへない存在、では全くないのです。放つて置きませう」-「いゝのかい?」-「はい。僕、本当は漫才ぢやなくて、ピンで露出したいんです」。こゝ迄はつきり云ひ切られては、カンテラにも夢雀を救ふのが無駄な事のやうに思はれた。



【ⅵ】


で、タロウに吠え立てられた夢雀 / 無名【魔】、何時まで經つても何の埒も明かず、「これつてもしかして」-さう、一切無視を決め込まれてゐる譯で、無名【魔】、夢雀が哀れに思はれて來た。「これにて俺は消える。待つのは『死』ばかりだがな」-夢雀「?」やうやく事の次第が分かつたのは、自分が事務所前で倒れてゐるのに氣が付いた時であつた。



【ⅶ】


「おい、POM、お前つて奴は-」-「あゝウザい。自分の身の始末も付けられない奴に、俺が味方するとでも思つたか」-「師匠に訴へてやる」-「丁度いゝ。こゝらで厄介拂ひしたいと思つてたところだ」-今度はじろさんが出て來た。「おいおい、仲間割れなら師匠の前でやれよ」-POMの助「此井先生がさう仰るなら」-「あ、あ、待つてくれ、だうせ俺が切られてThe Endなのは目に見えてる」-「ぢや、これにてお開きな」とじろさん。



【ⅷ】



※※※※


〈暖房と冷房間違ふ冬隣 涙次〉



無名【魔】は魔界に帰り、即刻処刑された。で、何処迄もPOMの助頼りの夢雀、項垂れてとぼとぼと師匠宅に一人、帰つて行つた。じろさん「POM、やり過ぎなんぢやないか?」-「この業界、これぐらゐでいゝんです。奴を甘やかす積もりは、僕には一切ありません」-悦美「假縫ひ出來たわよ!」-「どれどれ? はゝ、良く似合つてるよ」カンテラ。と云ふところで、今回はお仕舞ひ。哀れ夢雀。

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