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5)

 それからはアレクサンドラ・マリアからの手紙もなく、学校も始まって忙しくなり、何となく王子たちのことも脳裏から去っていた。ずっと学びたかった神学は興味深く、天つ后への信仰も日々深まっていった。庭の草むしりも天つ后への奉仕と思えば辛くなかった。


 学校が始まって二か月ほど経ったころだった。いつものように神殿の庭で草むしりをしていると、女性と思しき参拝者から声を掛けられた。

 「すみません。こちらの修練生様でいらっしゃいますか。」

 「はい。左様でございますが。何か御用ですか。」

 見れば、アレクサンドラ・マリアに劣らぬ美しい女性のようで、かつて王宮で見た初恋の少女を思い出した。

 「ヴィクトール・アントン様でいらっしゃいますか?」

 「はい。左様でございますけれども。どちら様でしょうか。」

 「私王宮からの使いで参りましたフレデリカと申します。」

 私は思わず身じろいだ。

 「そう怖がらないでくださいまし。王子殿下からの言付けをお伝えしに参っただけでございます。」

 「さ、左様でございますか。一体どのような……」

 「修練生様が神殿をお出になれないのは承知しましたので、一度神殿でお話をされたいとのことでございます。」

 「一体何のお話でございましょうか。」

 「先日の祝宴についてのお詫びかと存じます。」

 「それでは、わざわざ足をお運びいただくことはございません。どうかお気になされませんようとお伝え願えますか。」

 「お断りなさるということでございますか?」

 「いいえ、恐れ多いということでございます。」

 「殿下はガッカリなさると思います。」

 「申し訳ございません。」

 「ちなみに、私、ヴィクトール様にお目にかかったことがあるのですが、覚えていらっしゃいますか?」

 話題が変わってホッとした半面、意外な質問に驚いた。誤魔化そうかとも思ったが、ここは正直に言っておこうと思った。

 「え、いや、申し訳ありません。ちょっと…覚えておりません。ただ、」

 「ただ?」

 「随分昔に王宮のお庭で似た方を見かけた記憶がございます。」

 「そうですか。それはきっと私だと思います。」

 なぜ断言できるのか分からず、返事が出来なかった。

 「……。」

 「だって、その時のことを私も覚えていますもの」

 「えっ?」

 「あの時からずっとこうしてお話したかったのですわ」

 「どういうことですか?」

 「ずっとあなたを見ていました。」

 どうもこのフレデリカという女性は少し様子がおかしい。

 「あの時、あなたが私に優しく微笑んでくださいました。」

 「いや、私は確か慌ててしまったと思うのですが」

 「いいえ、あなたは私を見つめてくださいました。」

 何か違和感がある。違う。この表情、どこかで見たことがある。

 どこで見たんだ。いずれにしてももう会話を切り上げなければ。

 「恐れ入りますが、修錬生があまり長く話すことは許されておりませんので、どうぞ殿下にはよろしくお伝えください。」

 「……。承知いたしました。殿下は悲しまれると思います。」

 「申し訳ございません。」

 「では、失礼致します。」

 彼女は一体何者なんだろうか。

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