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4)

 明くる日、私は最小限の荷物をまとめて、神殿に入ることにした。とにかく出家しないことには面倒だということを痛いほど分からされたからだ。

 両親と兄は一晩でとりあえず落ち着いたようで、「まだ入学までには半月以上あるのだから、そんなに急がなくても」というようなことを言っていたが、私は「またどんな面倒が起きるか知れませんから、これで御免蒙ります。今までお世話になりました」と言って神殿へと向かった。寂しくなかったと言えば嘘になる。しかし、それ以上にせいせいしたというのが本当のところだった。家族なんて煩わしいものからはこれでおさらばだ。


 神殿に入ると、学校が始まるまでは平民出身の子弟とともに下働きの日々が続いた。肉体的には辛いものがあったが、精神的には一番楽だった。祈って働いてまた祈るだけの日々。私はずっとこの暮らしを求めていたのだった。

 ある日、一通の手紙が届いた。差出人はアレクサンドラ・マリアだった。嫌な予感がした。彼女のことが心配というよりも、巻き込まれることへの恐れだった。

 その手紙に書かれていたのは、要するに王子が私に異常に執着しているということであった。私が神殿に入ったその日に、王子はアレクサンドラ・マリアとともに侯爵家を訪問したともあった。私がすでに出家したことを知って烈火のごとく怒ったとも。アレクサンドラ・マリアは、王子の異常な様子に困惑しているようだった。長らく親しかったのに知らなかったというのも不思議なことだが。

 返事は要らないとあったので、返事は出さないことにした。いずれにせよ返事を出すつもりはなかった。しかし、どうして王子は私にここに来て執着するのだろうか。それが分からなかった。

 嫌な予感がして、指導神官に王子からの使いなどが来ていないか尋ねると、何回も来ているがすべて追い返しているので心配いらない、とのことだった。安堵する反面、恐ろしさで身が震えた。


 しばらくして、また手紙が届いた。やはりアレクサンドラ・マリアからだった。しかし、元婚約者に何度も手紙を書くなんてどういうことだろうか。今度は返事を書いて、あらぬ誤解の種になるからそう頻繁に手紙を送ってきてはいけない、と言ってやろうかどなと思いつつ封筒から手紙を出し読み始めた。

 そこには、王子はもう怒っていない。むしろ、謝りたいと思っている。だから、一度王宮に来て、王子と会って貰えないか、といったことが書いてあった。筆跡はどうもアレクサンドラ・マリアのもののようだったが、内容が怪しい。この間の手紙のことがバレて脅されたのではないか。そう考えないと辻褄が合わない。

 言っても元婚約者だから、やはり心配になった。本当は関わりたくないが、断りの返事を出すことにした。それにそもそも神殿に入った者は四年間の修錬期が終わるまでは神殿を出ることができないのだ。

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