14)
私はしばらく押し黙っていた。王子はその間ずっと項垂れていた。
私はこの五年間散々な目に遇い、最後の最後で酷い辱めを受けた。それは水に流せない。ただ、もう捉われるのも嫌だ。それに、フレデリカは自分の愚かさを認めていた。マッチポンプかも知れないけれど、私の責任ではないと言ってくれたのはフレデリカだけだ。
「……分かりました。今回はすべてを受け容れます。」
王子に「許す」という言葉は使えなかった。分かってもらえるか不安だったが、王子のぐちゃぐちゃに泣いている顔を見て、安心した。
大神官様は安堵した面持ちで言った。
「やれやれ。何とかなったか。」
「大神官様、ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありませんでした。」
「ヴィクトール・アントン、そなたが謝ることは何もないぞ。王子殿下、何か言うことはないか。」
「申し訳ありませんでした。」
「うむ。これでもう無理をせぬでも良くなったはずだ。もう男の嫌なところまで真似せずとも良い。そして、ヴィクトール・アントンの寛大な心に感謝し、彼の名誉を回復するようにせよ。」
「承知いたしました。」
「ヴィクトール・アントン、そなたにもう一度頼みたいのだが。」
「はい。」
「還俗して、この愚か者を助けてやっては貰えぬか。この者なりに苦しんできたのだ。これからも王子として、いずれは王太子、国王として生きてゆかねばならぬこの娘を憐れんではくれまいか。」
フレデリカのことを思うと、大神官様の頼みを受けたいとも思うが、神学者の道を諦められない。
「大神官様、私の心は今にも二つに裂けてしまいそうです。」
王子がまた泣きそうな顔をしているのが見えた。
「僕のためにもう苦しまないでほしい。僕は大丈夫だから。」
私のなかで王子は消えてしまった。そこにはフレデリカしか居なかった。
「もう泣かないで、フレデリカ。私は君のそばに居たい。」
王子、いやフレデリカは私に縋りつくように泣いていた。もう泣くことはないのに。
大神官様は満足げに頷いていた。まんまと乗せられた気もするが、仕方ない。




