12)
私は元婚約者のことを思うと我慢できなかった。
「殿下、殿下を思い続けた彼女の気持ちはどうなるのですか。あまりに可哀想ではありませんか。」
王子はまた昏い表情を見せた。
「やっぱり君はアレクサンドラ・マリアのことが忘れられないんだね。」
「違います。殿下は勘違いなさっています。アレクサンドラ・マリアは仮の婚約者です。私はアレクサンドラ・マリアを殿下にお返しするつもりでしたし、アレクサンドラ・マリアは常に私を見ていませんでした。ただ、五年間婚約者として過ごした以上、家族に対するような情が生れるのは当然ではありませんか。」
「そう。まあ、今はそういうことにしておくよ。君の元婚約者はね、別に僕のことを好きでも何でもないよ。彼女が求めているのは王妃の座なんだから。」
「そんな馬鹿な」
「何なら彼女は僕が女だってことも知ってるよ。フレデリカになって会いに行けって言ったのも彼女さ。」
「それにしても、彼女がどうして王妃の座を求めていると言えるのですか?」
「王妃の権威を守るためだって。」
「権威ですか?」
「そう。だって僕側妃殿下の産んだ子じゃない。正統性が半分なんだってさ。馬鹿にしてるよね。でもね、王妃派の連中はみんなそう思っているそうだよ。だから、正統な貴族、特にこれまでも王妃を輩出した家柄から王妃を出すべきなんだって。そして、アレクサンドラ・マリアは同世代の令嬢で王妃に最も相応しいそうだ。」
「本当ですか?」
俄かには信じられない話だ。
「本当だよ。それで、僕と彼女の間では当然子どもができないから、三大公家のいずれかから養子を迎えることにしたんだ。その頃、彼女は僕が女だと知った。彼女から手紙が何通か届いただろう。」
「ええ。三通届きました。一通目と二通目、三通目では内容が変わっていましたので、私は彼女が殿下に脅されているのだと思っていました。」
「酷いな。傷つくよ。まあ、その変化は僕が女だと分かったからだ。彼女は僕の君への想いを許してくれたよ。フレデリカとしてであれば、好きにしていいと言ってくれたんだ。」
「そうでしたか。」
頭がくらくらする。それまで見えていた世界、信じていた世界がガラガラと音を立てて崩れていくようだ。




