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王子は俯いたまま一言も発しない。大神官様は堪り兼ねた様子で発言を促した。
「王子殿下、言葉にしなければ通じませぬぞ。さあ」
「は、はい……。ヴィクトール・アントン。…まずは謝らせてほしい。僕は余りに君に失礼なことを言ってしまった。辱めを与えてしまった。これまでの僕の部下たちの行いも僕の責任だ。どうお詫びしてもお詫びしきれない……。許してくれとは言わない。ただ、謝りたい……」
あの王子が泣いている。信じられない光景に言葉が出ない。
「そして、フレデリカとして君を騙していたことも謝りたい…。申し訳なかった。」
困惑しきっていたが、黙っていても埒が明かないと思い、私は意を決して言った。
「パーティーの時のことはまだ水に流せません。殿下のお仲間から受けた仕打ちもそうです。ただ、フレデリカ嬢のことについて、私は謝って頂く必要はございません。」
「えっ?」
王子殿下は意外そうな顔をして私を見た。
「殿下、私はまだ殿下がフレデリカ嬢であると信じられないのですが、フレデリカ嬢について、私は何も謝っていただくべきことはございません。」
「そ、そうか……。良かった……。」
少し頬が赤らんでいるようにも見え、さらに信じられない。
大神官様がまた王子に話を続けるよう促され、王子はポツリポツリとこれまでの想いを話し始めた。
―僕は、王子として育てられた。でも、僕は女だ。どうしても堪らなくなって、わがままを言って娘の格好をさせてもらった時に、ヴィクトール・アントン、君に出会った。君は僕を娘として見てくれた初めての人だ。
僕はあの眼差しが忘れられなかった。僕は君がアインベル侯爵家の令息であることを知り、ずっと君を追いかけて来た。ただ、アレクサンドラ・マリアと婚約してしまったのは残念だったよ……。本当に残念だった。
王子は昏い目をしてそう言った。
―彼女と婚約したことで、僕は君と接触できなくなってしまった。エアフルト侯爵家は王妃派だったからね。そして、何より僕が君と婚約できなくなってしまったのが、本当に残念だった……。もちろん、いずれにしても僕が君と婚約することはできなかったけれどね。
君への想いが変わらないから、僕はいつまで経っても男になれない。しかし、王子として生きなければならないし、君はもうアレクサンドラ・マリアのものでどうしようもない。余計に王子らしくならなければ、男らしくならなければと思ったんだ。気づいたらご存知の通りの僕になっていた。
僕とアレクサンドラ・マリアは別に大した仲じゃなかったけれど、噂も放っておいた。君が「悪役令息」と言われているのも耳にしていたが、それでアレクサンドラ・マリアとの仲が拗れてくれないかな、というぐらいにしか思っていなかったんだよ。馬鹿だね。
母が死んだのは悲しかったけれど、王妃様の養子にしていただけたのは僥倖だった。それで君とアレクサンドラ・マリアを引き離せるのだからね。




