10)
大神官様は私にフレデリカと結婚しろと言っているのだろうか?
「どういうことでしょう。」
「どういうことも何もない。フレデリカと結婚しないか、と言っておる。」
「恐れながら、私は神学者を志す身でございます。還俗する気はございません。」
「ふうむ。そうか。」
「それに」
「それに?」
「そもそも私はフレデリカ嬢がどういうお方か存じ上げません。」
「そうか。王子殿下のお使いということしか知らんのだな。」
「左様でございます。」
「フレデリカは誰かに似ておると思わぬか」
やはり、王子と近いのか。
「王子殿下に似ていらっしゃるかと存じます。」
「左様。あれは王子殿下に似ておる。いや、似ておるのではない。」
似ているのに似ているのではない。どういうことだ。
「あれは王子殿下だ。」
「えっ⁉」
あまりに思いがけないことで、頭が真っ白になった。
「ヴィクトール・アントン、聞えておるか?」
立ったまま、少し気が遠くなっていたらしい。
「はっ、失礼致しました。」
「いや、よい。余りのことで驚いたことだろう。」
「はい。フレデリカ嬢が王子殿下とはどういうことでしょうか。」
「うむ。国王陛下には子どもが一人しか居らぬ。王子殿下だ。」
「承知いたしております。」
「実はな……、王子殿下は女だ。」
「はっ⁉いや、どういうことでしょう。」
理解が追い付かない。
「国王陛下と側妃殿下の間に生れたのは娘なのだ。」
「しかしながら、王子殿下はアレクサンドラ・マリアと婚約いたしましたが……」
「それは王子殿下は王子殿下だから侯爵令嬢と婚約しても不思議ではなかろう。」
「しかし、いま王子殿下は女性であると……」
「娘として生まれたが、いまは王子殿下として生きておられるということだ。」
「では、フレデリカ嬢が王子殿下の真の姿ということでしょうか?」
「そうとも言えぬ。王子殿下は生まれた時から王子殿下として育てられたのだから。」
どういうことなのだろうか。いまいちよく分からない。
「ヴィクトール・アントンよ、そなたは王子殿下とほとんど関わりがないなかで、いきなり暴言を吐かれ、追い掛け回され、嫌な思いをしただろう。」
王族出身の大神官様に、正直に答えるべきか迷う。
「正直に申せ。」
「酷い目に遇ったと思います。」
「あれは王子殿下自身どうしていいか分からなかったのだ。結果として実に愚かしいことになってしまったが、本当にどうしようもなかったのだよ。」
フレデリカ嬢もそんなことを言っていたような。
「王子殿下、いやフレデリカは初めて娘の格好を許されて王宮の庭園を散歩していた時に、そなたに会ったそうだ。」
「はい。それは間違いないと思います。」
「そして、その時にそなたに惚れたそうだ。そして、王子殿下として暮らしている間もずっとそなたを想っていたと言っておる。」
「では、どうして……」
まったく納得できない。何故あんな辱めを受けねばならなかったのか。
「それは、本人から直接聞くがよかろう。」
大神官様がそういうと、奥の部屋から王子が出て来た。思わず身が強張る。しかし、王子はあの時とはまったく様子が変わっていた。




