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1)


 あれは、五歳のころだったか、国王陛下への初めてのお目見えの時のことだ。

 私はお目見えを済ませた後、陛下のお許しを得て、侍女とともに王宮の庭園を拝見していた。五歳の子どもが王宮の庭を見たところで何ということもないのだけれど、父が謁見を終えるまでの時間潰しだったのだろう。

 その時に、遠くに金髪の美しい少女を見かけたのだった。年のころは私と同じくらいだったのだろう。私は思わず見とれてしまった。

 よほど凝視してしまっていたのか、こちらの目線に気づいたようで、少女はやさしく微笑みかけてくれたのだった。私は恥ずかしくて、会釈だけするとそのまま逃げ出してしまった。

 帰りの車内でも、帰宅しても彼女の微笑みが忘れられず、今もどこか忘れられずにいる。あれが私の初恋だったのだろう。


 「…殿、ヴィクトール殿!」

 目の前の司法官が不愉快ように私に呼びかけているのに気付いた。

 いかん、こんな時に物思いに耽るなんてどうかしている。

 「ヴィクトール殿、続けてよろしいか?」

 「失礼致しました。どうぞ続けてください。」

 司法官は気を取り直すように咳をして、私に確認した。

 「ヴィクトール・アントン・フォン・アインベルク殿、貴殿はアレクサンドラ・マリア・フォン・エアフルト嬢との婚約を解消することに同意されるのですな。」

 「はい。同意します。」

 続いて、司法官は私の婚約者である令嬢にも確認し、彼女も同意した。


 かくして、私たちは王立学校卒業後すぐに婚約を解消した。

 王国社交界の花とも宝とも称えられる私の婚約者はここに元婚約者となった。

 普通の男であれば悔やんでも悔やみきれないだろうが、私はただただホッとしていた。


 「ヴィクトール、本当にごめんなさい。」

 調停室を出ると、彼女は心底申し訳なさそうに謝ってきた。

 「いやいいんですよ。エアフルト嬢。これで肩の荷が下りました。」

 私はもうどうでも良くなったのもあって軽く返事をした。

 彼女は何とも言えない表情をして、「私はあなたにとって重荷だったってこと?」と聞いてきた。彼女がどういうつもりか分からなかったが、とりあえず真意を説明しておいた。

 「エアフルト嬢。そうではありません。いつかは必ずこうなると分かっていましたから、それまでは私が婚約者として貴方を無事に殿下にお渡ししなくてはならないと努めて参りました。その御役がようやく御免になり安堵しているということです。」

 彼女は少し寂しそうに「そう。今までありがとう」と言って黙ってしまった。

 私ももう特に話すこともなかったので、迎えが来るまで黙っていた。

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