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暗闇が見えた。
いや、暗闇でしかない。
その中を必死に藻掻く。けれども何も掴めない。
何があるかもわからないのに…ああ、これが地獄の沙汰なのだろうか……。
そう思った瞬間、目の前にパッと白い閃光が走った。
思わず身構えて光を遮る。
「杏子!!!」
「っ!?」
目を開くと目の前に見知らぬ……いや、さっき見たピンクのツインテール女子が私の顔を覗き込んで見ていた。
「大丈夫!?すんごいうなされてたけど。」
「え、ああ、そうなの?」
「うん、ずっと両手をヒラヒラさせて唸ってた。」
寝相なんてものは自分が見れず知れずで他人に言われて初めて理解するが、指摘されることほど恥ずかしいことは無い。
「あー、そうなんだ、そう、ごめん、何か。もう大丈夫だから。」
顔に左手を当てながら、右手を穂並に翳す。
「そう?さっき訊いたことが不味かったのかな…ごめんなさい、過去のこと詮索するようなことして…。」
しゅんとしてまるで狩りで捕まえられた野うさぎのように悄げた穂並は愛らしく見えた。
「いや、私自身もこんなこと初めてで…少し驚いてるけど、気にしないで。」
精一杯微笑みを湛えたつもりで穂並を宥めた。
「起きたか…。」
物音一つせずに、いつの間にかχが寝かされている部屋の開いたドアの前で立っていた。
「何よ、私たちの女子トークを盗み聞きするとか、マジで悪趣味な男子よね、あんた。」
薄目を上弦の三日月のようにして、口元はへの字にした穂並は、私を抱き締めて擁護する体勢になった。
「別に、お前らが騒がしいから割って入るような必要もなく、待ってやってただけだろ。」
私が横たわっていたビロード張りの赤いソファーは、3人掛けができるほど大きく、しかもとてつもなく気持ちの良い肌触りと柔らかいクッション性だった。
その隣に白色のワゴンがあり、ランプが置かれている。
ワゴンの上にトサッと軽い音を立てながら、χは紙袋を置いた。
何となくだが、その紙袋の中からふわりと温かな芳ばしいバターの香りがした。
「これはこの街に20年以上愛され続けているパン屋のパンだ。食べれそうなら食べろ。」
私と穂並が「何だ何だ」と、美味しそうな匂いにつられて紙袋に視線を落としたので、χは流れに沿ってそう話した。
「いやったぁあああ!!!」
構わずに穂並が奇声にも似た歓喜をあげる。
「杏子!これ、ここのパン本当に仕入れるのに苦労するのよ!私何回このパンを手に入れるのに苦労を強いられたことか…こんなにあっさり手にすることができるなんて…!ほら、遠慮なく食べちゃいましょ!変なこと聞いて卒倒させた罪滅ぼしよ、χなりの!」
もうそれは噛むんじゃないかという、あまりの勢いのある穂並の論説に気圧されながらも、私はパンを手に取り食した。
「……美味しい。」
さっき飲んだ珈琲といい、パンまでもがこんなにも芳ばしくて甘味を感じるほど今日は優越に浸ってしまっている気がした。
生きていて良かったと思える食物とはこれなんだろう。
まぁ先程の頭痛は誤算だったが、それらによって吹き飛ばされたので今では悪くない。
「……。」
「…?」
χがパンを食べている私をじっと見つめているのに気がつき、「何ですか?」と首を傾げて見返したが、本人は「ふん」と鼻を鳴らし踵を返してドア向こうへ去ってしまった。
「どうしたの、杏子?」
「いや、何でもないよ。」
私の首傾げが移ったように穂並も首を傾げたが、すぐにパンを見る目を輝かせて少し早い夕食にありついた。
いつもいつも、何故こんなにも小説を書く手が遅くなるのか……。
自分に課したペナルティがデカすぎるのか、そうなのか。とかどうでもいいこと考えてます。
1話1話の文字数を数千単位で書き上げようと思っているので、長い長い話になり目も疲れるかと思いますが、どうぞお付き合いくださいませ。




