エコー・ロケーション
ーー夢を、見たんだ。
それは、とても綺麗で。儚くて。優しくて……
そして。
とても、残酷な……
(タイトルコール)エコー・ロケーション
夢の中で、あなたと私はクジラだった。
お互い片時も離れず、甘く緩やかな時間の流れに揺蕩っていたんだ。
キラキラと陽光が差し込む碧い世界で、二人は寄り添い、時には戯れ合いながら甘い時間を共有していた。
どこまでも続くその世界は、空と海との境界線すら曖昧で。
あなたと二人、溶け合って、混ざり合って、一つになって………
……そこで目が覚めた。
『……いいところで……』
思わず声が漏れた。
夢の中では相思相愛だった二人も、現実世界ではただの幼馴染だ。
これが現実。現実はそんなに甘くはない。
昔から家族ぐるみで仲が良くて、同い年のあいつとも当たり前のように仲良くなって。
大きくなったら結婚しようね、なんて子供らしい約束を交したこともある。
しかし、そこは所詮、子供の口約束。果たされることの方が珍しいだろう。
ご多分に漏れず、私たちのこの約束も、果たされないまま、十数年。挙げ句の果てには恋愛相談まで持ちかけられる始末。
気持ちを隠して、相談には親身に乗って。
距離が縮まりすぎて、関係が壊れるのが怖くて。そんな色んな理由をつけて。
幼馴染という関係に胡座をかいて、告白するのに二の足を踏んでいたら、その罰だと言わんばかりに。
奪われてしまった。
とても綺麗な人だった。
私とは違う、長くて綺麗な髪。
私とは違う、くるくると変わる愛らしい表情。
私とは違う、すらりとしなやかに伸びた手足。
私とは違う……エトセトラ、エトセトラ。
彼女のすべてが私とは正反対で。
はじめから望みなどなかったのだと思い知らされる。
それでも心はあいつを求めてて。
私じゃない彼女に向けられる笑顔を見る度に、引き裂かれそうな傷みに耐えている。
きっぱりと諦めた方が、楽になれるのかもしれない。あいつを忘れてしまった方が、穏やかに生きていけるのかもしれない。
でも。
それでも。
あいつと積み重ねてきた時間が、想い出が。それを良しとしてくれない。
だから私は、今日も夢に夢を見る。
じくじくと傷み疼く、伝えられない想いにそっと手を当てて。碧い世界の夢を見る。
いつか、素直に前を向けるまで。いつか、あいつとの思い出を置き去りにできる日まで。
クジラになって、流せない涙を海の碧に混ぜていく。この想いが伝わらないように、バレないように。
甘い夢から覚めた私は、今日も冗談交じりの『大好き』で、私とあなたの距離を測る。
臆病な私の心の深海に響く、エコー・ロケーション。