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前編

ちょっと頭に思いついた内容を書いてみました。合間に読んでいただけると幸いです。

「今日はこれで終わりにします」


 担任の一言でSHRが終わり、今まで静かだった教室内は一気に慌ただしくなる。

 友達同士で雑談し始める人、部活があるからと足早に教室を出る人、スマホをいじり始める人など様々だ。

 そんな中、俺こと新神祐一(あらがみゆういち)はゆっくりと席を立つ。


「おっ、今日も行くのか?」


 その様子を目敏く見つけたクラスメイト兼親友の坂柳蓮(さかやなぎれん)が声を掛けてくる。


「ああ、行かないと後で何されるか分かったもんじゃない」

「けっ、入りたくても入れない生徒が星の数ほどいるってのに羨ましいこった」

「星の数は大げさだろ。せいぜい数十人ってところだ。んじゃ、俺は行くからな」

「おう、また明日!」


 蓮にどこか羨ましそうな表情で見送られながら俺は教室を出た。




 俺が通う私立鳴海山高校は学区内だとそこそこ偏差値の高い進学校といった位置付けだが、自由な校風や質が高いと評判の教師陣、有名デザイナーとやらが手掛けた制服が人気と様々な要素が相まって倍率の高さは県内トップクラスらしい。

 俺は単に実家から近いという理由だけで受験して合格し、すでに1年の時が過ぎている。


 俺は数年前に建てられたという新校舎を出て、今では文化部の巣窟となりつつある旧校舎へと足を運ぶ。

 目的の場所は屋上を除けば最上階である4階の一番奥の部屋であり、ここまで来るとさすがに他の部室は存在しておらず廊下は静けさに包まれている。


 いつも思うが、ここまで歩いてくるのはかなりしんどい。何の嫌がらせかと言いたくなるが、新校舎と旧校舎は繋がっておらず、俺達2年生の教室がある新校舎の3階からわざわざ1階まで降りて外に出てからじゃないと旧校舎に行けなくなっているのだ。


 にもかかわらずなぜ俺はほぼ毎日足繁く通う羽目になっているのか。それはある1人の先輩(・・)のせいである。

 軽く息を切らせながら俺は目的の部屋の前まで到着してドアをノックする。

 すると部屋の向こう側から『どうぞ』と女子の声が聞こえたのでドアを開ける。


「あら、ようやく来たわね」


 そう言ってノートパソコンから視線を上げたのはこの学校で有名な1人の女生徒だ。

 腰近くまで伸びている黒髪に美人と呼ぶに相応しい顔立ち、制服を押し上げている豊満な胸の膨らみがあるにもかかわらず腰は細く脚も長いという圧倒的なスタイルを持つ。

 しかも成績は学年どころか全国模試でもトップクラスで運動能力も高いとなればまさにパーフェクトと言っていいだろう。


 名前は藤堂院桐葉(とうどういんきりは)。鳴海山高校の3年生でこの部屋、というか『文芸同好会』の会長であり俺の先輩だ。


「こんちは。相変わらず来るのが早いっすね」

「そう?祐一くんが来るのが遅いだけではないの?」

「無茶言わないでくださいって。これでもSHRが終わってすぐに教室を出たくらいっすよ?」

「だとしてももう少し急いで来れるはずよ。まったく、少しは副会長としての自覚を持って欲しいわ」

「副会長って言われてもここは桐葉先輩と俺しか居ないじゃないっすか!」


 そう、この文芸同好会の会員は桐葉先輩と俺の2人だけである。しかも俺がここに入会してからずっとこの状態が続いている。

 だからといって人員が増える機会が無かった訳じゃない。むしろ・・


「今年だって希望者がたくさん来たじゃないっすか!」


 今でこそだいぶ落ち着いたが、実はほんの数日前まで入会を求めて長蛇の列が出来ていた。しかし結果はご覧のとおり1人も増えなかった。その理由というのは・・・


「だって私の入会テストに合格した生徒が居なかったもの」


 涼しい顔をして答える桐葉先輩。入会テストというのは桐葉先輩が作ったシステム(?)であり、文芸同好会員としての適性が相応しいものであるか確認するためだと謳ってはいるが、実際のテスト内容は引掛けや無茶ぶりのオンパレード。入会させる気なんかさらさら無いんじゃないかというくらいなんだが、桐葉先輩曰くギリギリ出来る範囲を見極めているので問題無いらしい。


 まあ謎の入会テストが必要というのも分からなくはない。何せ入会希望者の9割以上は男子生徒で明らかに桐葉先輩目当てというのが丸分かりなのだ。

 入学して数日もすれば桐葉先輩の存在が知れ渡るし、文芸同好会に所属しているという情報も同じく広がる。

 そりゃこれだけ美人でスタイル抜群なのだから人気が出ないはずはない。お近づきになってあわよくばなんていう下心が出てしまうのは仕方無いだろう。


 ・・・結局そのような輩は入会テストでバッサリと落とされるのだが。


 さて、ここまで説明したところで気になる事が出てきたのではないだろうか。


 どうして俺が入会出来たのか、だ。ちなみにいうと俺は入会テストを受けていない。じゃあ去年は入会テストが無かったのかというとそうではなく、去年も同じ光景が展開されていた。


 結論から言うと、理由は今も分からない。以前に何度か聞いてみたものの、いつもはぐらかされてしまう。


「そうは言ってもせめてもう1人くらいは入ってもらわないと。同好会だって会長以外の会員は2人必要なんすよ?」

「良いじゃない別に。1年間誰も注意してこなかったのだから」

「日本語間違えてるっすよ。桐葉先輩が居るから注意出来なかった(・・・・・・)んでしょ」

「何だか引っ掛かる言い方をするわね。まるで私が何かしているかのように聞こえるのだけど」

「違うんすか、生徒会副会長(・・・・・・)様」


 桐葉先輩は1年生の時に生徒会に所属し、2年生からは副会長を務めているのだ。


「生徒会長ならまだしも、副会長なんて大した権限は持ってないわ」

「またまたご謙遜を。今の生徒会長はお飾りで桐葉先輩が実権を握ってるって聞いたっすよ」

「誰から聞いたのか知らないけれど、そんな根も葉もない噂を信じるのかしら?」

「いや、事実でしょ」


 誰がどう見ても気弱そうな生徒会長が生徒会の運営をしているなんてあり得ない。入学式の新入生への挨拶だって桐葉先輩が考えてたって他の生徒会メンバーが言ってたし。


「私の言葉よりも噂を信じるなんて・・・これは()が必要だわ」


 桐葉先輩が席を立ち俺のすぐ傍までやって来る。


「な、何するつもりすか!?」

「さあ、当ててみなさい?」


 口角を上げながら俺の肩を手で押さえて顔を近づけてくる桐葉先輩。フワリと甘い匂いが漂ってきてお互いの息遣いが分かる程の距離だ。


 こ、これはまさか・・・!?


 緊張とわずかな期待が過る中、桐葉先輩の顔が俺の顔とゼロ距離に・・・ならず耳元へと。


「ふぅ~」

「うわぁ!?」


 耳に息を吹き掛けられて背筋をゾワリとさせながら慌てて飛び退くと、バランスを崩して本棚に頭をぶつけてしまう。


「〜〜〜〜っ!?いってぇ~〜〜!」

「あはははは!!」


 痛みのあまり頭を抱えながら床を転げているのに大声を上げて笑う桐葉先輩。こっちは苦しんでんのにちょっと鬼畜すぎませんかね!?


 数分後、痛みがようやく引いてきて部屋のソファーにムスッとした表情で腰掛ける俺。


「もう、いい加減機嫌を直しなさい。笑い過ぎたのは謝るから」


 両手を合わせて謝罪する桐葉先輩だが、その表情はまだ半笑いである。


「反省してるように見えないっす」


 俺はプイッと顔を逸らす。


「あ〜あ、拗ねちゃった。でも元はといえば祐一くんが煽ってきたのが悪いのよ?」

「つーーーん」

「はぁ、仕方無いわね・・・」


 すると桐葉先輩は俺の傍まで再び来る。今度は何をするつもりなのかと身構えていたら・・・


「よしよし」

「!?!?」


 桐葉先輩は心配そうに俺の頭を撫で始めた!


「な、なな何するんすか!?」


 またも慌てて飛び退く。しかし今度はバランスを崩さないように気を付けたのは言うまでもない。


「何って、痛みを和らげるために撫でてあげただけよ。別におかしな事はしていないわ」

「い、いや、そうっすけど、突然すぎやしませんかね!?」

「そうかしら?痛がっている後輩のために先輩としてひと肌脱いであげただけよ」

「あ、ありがとうございます?」


 まだ頭が混乱しているせいもあり、とりあえずお礼を言ってしまう。


「どう?少しは痛みが引いたかしら?」

「え、ええ、だいぶ・・・」


 撫でられたおかげというよりは突然の行動に驚かされて痛みが飛んでいったという方が正しいが。


「そう、良かったわ」


 桐葉先輩はそう言って微笑むと、元に居た席へと戻って腰掛ける。


「あっ・・・」


 しまった、しばらく許さないつもりだった気持ちがあっさりと霧散してしまった。

 これを見てもある程度察せられる通り、この1年間はまさに桐葉先輩に色々と振り回された。

 時には腹立たしい事もあったけど、最終的には許してしまう。やっぱり美人は得だなと何度思った事か。


「どうしたの?」


 何となく声を出してしまっただけだが、桐葉先輩には引き止めるように聞こえてしまったらしい。


「あ、いえ、今日は何か活動するのかな〜と」

「活動?そうね・・・」


 桐葉先輩は少し考え込む。良かった、どうにか誤魔化せたようだ。

 そしてしばらく待って発せられた言葉は


「特に何もしないわ」


 であった。


「このところ色々忙しかったから少し疲れたの。分かるでしょう?」

「えぇ、まあ」


 新年度になって新入生が入ってきた関係で生徒会の仕事が忙しく、尚且つ連日の入会テストである。さすがの桐葉先輩も疲労が溜まっているのだろう。


「だから今日は生徒会関係の書類を少し整理したら帰るつもり。もし退屈だったら、祐一くんは帰ってくれても良いわよ」

「了解っす」


 桐葉先輩のお許しも出た事だし、今日は早く帰ってゲームでもしようかと思っていると、


「たのも〜!!」


 バン、と突然部屋のドアが勢いよく開かれる。しかもどこかで聞き覚えのある声だ。


 どうやら、早く帰れそうという希望は早々に打ち砕かれそうであった。

題に書いてある後輩がまだ出ていない件(笑)。次回登場します!

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