1枚目 影に潜む男
ガララ……
「お、きたきた」
部室で一人、スミレが椅子に座っている
「あれ?もう来てたんですか」
「まあね、朝からずっといたから」
「授業受けてないんですか……」
「退屈じゃん」
「いつか痛い目見ますよそれ」
「大丈夫大丈夫、なんとか上手くやってるから」
「それより、はいこれ」
「え?」
突然、何かを渡される
「これ、カメラじゃないですか」
「そ、あたしのお下がりだけどあげる」
「いいんですか?」
「いいよ、あたしらは基本的にカメラに収めることが活動内容だからさ」
「あんたもカメラなきゃ、やることなくて退屈でしょ?」
「……ありがとうございます」
「さ、それじゃあ早速行こうか」
「あんたの記念すべき一枚目を撮りに」
~~~~~
「あの~……」
「何?」
「もしかしてなんですけど……前みたいに今日も危険な感じですか……?」
「いやいや、まさかそんな訳ないでしょ」
「流石に初日の新入部員にいきなりそんなことさせないって」
(昨日のこと忘れてない?この人)
「あ、いたいた」
人通りの少ないゴミ捨て場に一人座っている老人
上の服は着ておらず、身体全体が日に焼けている
確か格闘ゲームにこんな感じのキャラがいたはず……
「久しぶり」
「おお、これはこれは」
こんなことを思ってはかなり失礼だけど正直ちょっと関わりたくないな……
なるべく顔には出さないようにしよう
「えっと……スミレ?こちらの方は?」
「この人はあたしと同じ超能力者」
「え!?この人が!?」
「そう、この人の能力、超面白いよ」
「久しぶりにあれやってよ」
「どれどれ、じゃあ見せてあげようかな」
(大丈夫かな……)
老人が10円玉を右の鼻の穴に付ける
(え?)
そして…
「ふん!」
ズボォッ!
鼻から10円玉を吸い込んだ
「あっはっはっはっは!!」
それを見て大爆笑するスミレ
(嘘でしょ……しょうもなさすぎない……?)
「チッチッチ、まだ終わってないぞ」
今度は老人が右の鼻の穴を押さえた
「ふん!」
ボンッ!
左の鼻の穴から10円玉が飛び出した
「ああっはっはっは!!」
(ええ……何見せられてんの今……)
「どう?これがこの人の超能力」
「右の鼻の穴から吸い込んだ物を左の鼻の穴から出すことができる」
「あ……はは……」
愛想笑いが限界だった
「ところでさ、この辺りで何か変わったこと無い?」
スミレが老人に尋ねた
「変わったことか?う~ん……」
「あ、そういえば」
「昨日だったかな……そこの路地を子供が通ってたんだけどな?」
「明らかに影がおかしいんだよ」
「影?」
「そう、影の大きさが子供の大きさと合わないんだよ」
「確かに普通の子供だったんだけど、影は大人の姿だったんだ」
「それって、単純に陽の傾き方でそう見えただけじゃないんですか?」
「う~ん、そう言われると自信はないんだがな」
「だけど普通、人の影を見ておかしいって思うかい?」
「……思わない」
「そうだろ?あの違和感はきっと間違いじゃない」
「あの子供の影には何かある」
~~~~~
老人がその子供を見かけたという路地に二人で張り込みをしていた
「今日も来るんですかね、その子供」
「さあ、分からないからこうして待ってるんじゃない」
「私は正直、気のせいだと思いますけど」
スミレがその言葉に対して口を開いた
「一目見て感じたことってのは侮っちゃいけない」
「答えってのは案外、最初の方にあったりするもんなんだよ」
「だけど言い訳や理屈なんかを色々と考えたりしたりして、本当のことが分からなくなったりする」
「一番最初に思ったこと、感じたこと、その気持ちは紛うことなき絶対なんだよ」
私にはその言葉の意味が少し分からなかった
それは私とスミレの経験の差による違いのせいなのかもしれない
「お、誰か来る」
元々この路地は人通りの少ない場所だった
時計を確認していなかったから、あくまで体感でしかないけど、あれから一時間ぐらいは張り込みをしていたと思う
しかし、人が通ったのはたった三回だけ
陽も沈みかけている
正直、今日はもう解散にしたかった
「いた」
「え?」
路地を一人歩く男の子
陽の光に照らされて地面に映し出されている影はその男の子の姿より一際大きかった
「本当に…影が大きい…」
「ほら、アオイ」
「カメラ構えて」
「あ、そ、そうだった」
パシャ!
男の子と大きな影を写真に写した
「どれ、見してごらん」
スミレが写真を見る
「……これは」
「どうかしたの?」
「ここを見て、分かる?」
「影にうっすら見える……オーラ?」
「そう、これは能力者の特徴」
「能力者を写真に写すとこうやって、オーラが写るの」
「じゃあ、あの子も能力者」
「いや、違う」
「もし、あの子が能力者ならあの子からオーラが出る」
「けどこの写真は…」
「影からオーラが出ている…」
「そう、つまり能力者はこの影ってこと」
「影が…能力者…?」
「これは事件の匂いがする…調べましょ」
男の子に直接、接触することとなった
「ねえ?僕 ちょっといいかな?」
スミレから口を開いた
「このお姉さんがいいことしてくれるって」
「な!?何言ってんの!?」
「いいこと…?」
「あーあ!気にしなくて大丈夫だよ!」
スミレが影を調べる
「ふむ、これといって見た目以外に特徴はない……」
「ねえ?僕」
アオイが声をかけた
「この影、いつからこうなってたの?」
「影?」
男の子が自分の影を確認する
「わかんない」
「分かんない?…ってことは気づいたらこうなってたってこと?」
「うん」
「まあ、普通自分の影なんて見ないしなあ」
「踏んづければ案外、反応があるんじゃない?」
スミレが男の子の影を力いっぱい踏み続ける
「おら!おら!」
「ちょ、ちょっと!周りの目も少し気にしようよ!」
「周りの目?あたしらしかいないでしょ」
「もしいたらどうすんの!?」
「知らない…よ!」
ダン!!
そのときだった
ぬるぅッ!!
男の子の影から全身真っ黒の男が突然現れた
ガシッ!!
「う!?」
スミレがその男に首を掴まれる
「スミレ!!」
「うわあああ!?」
「君は早く逃げなさい!!」
男の子が急いで走り出す
「…………」
男がスミレの首をがっしりと掴んで締め上げる
黒い帽子に黒いコート、そして真っ黒な顔
開ききった狂気的な目が不気味さを際立たせている
「くッ!!」
スミレが懐から銃を取り出す
ガラガラガラ……
「!?」
しかし銃は虚しくもはじかれる
「ううッ!!」
スミレの首を絞める力が強まる
「その手を離しなさい!!」
男に銃を向ける
「アオイ…バカ…」
「私は本気だから…」
「…………」
「さあ……早く離しなさい……」
「…………」
男がゆっくりと手を離す
そして……
シュッ!!
男がナイフを取り、切り掛かる
「キャッ!?」
バンッ!!
引き金を引いた
しかし……
「おも……ちゃ……?」
それは本物の銃ではなかった
男は警戒して後ろに下がったがそれが実銃でないと分かり、再び襲いかかる
「てああああ!!」
バギィィィン!!
スミレの鉄パイプが男の顔面にヒットする
もろに受けた男が大きくよろける
「…………」
男はこちらを睨みつけた後……
ジュウウウウッ……
影の中へと消えていった
「逃げ……た?」
「はぁ……」
緊張の糸が切れ、全身から力が抜けていく
「あたしの銃返して」
「え?……ああ、はい」
「なんでおもちゃだって教えてくれなかったの?」
「はあ?本物の銃なわけないじゃん」
「大体、本物だったとしたらあんたは今頃、立派な人殺しだよ」
「……そうね」
その後は何事もなく、次の日を迎えた
これはあくまで余談で今回の件と関係があるかどうかは分からないけど
私達が影の男と出会ったその日、その周辺で子供達5人が消息不明となった
警察は事件性があるとみて調査を進めているらしいが未だ犯人は見つかっていない