乗務9 運転手:カーク・キーン③
私の名は『カーク・キーン』。
先日まで騎士団に所属していた、今はしがない『職業:運転手』だ。
スモールシダーで乗せた乗客はこのストランド王国の第三王子殿下だった。
私は殿下を乗せ、王都騎士団の宿舎へと車を走らせていた…。
道中の車内の会話から私と殿下の蟠りは、少しは解れたのではないか…そう思う。
しかし…
「おやおや?これは副団長殿…いや、今は運転手でしたか…。こちらにはどのようなご用件で?」
騎士団宿舎に到着して殿下を降ろし、殿下に挨拶を…と私が車から降りたところで声が掛かる。
そこには黒銀のハーフプレートアーマーに身を包んだ男が、ニヤニヤと厭らしく口の端を歪め、見下ろすように私に視線を向ける…
「………副団長…」
王都騎士団の元三席、そして私が去ったあとの騎士団の現副団長がそこにいた…。
「副団長、カークは私をここまで送ってくれただけだ」
「殿下、私は#ソコ__・__#の運転手に聞いているのです。何故、殿下が応えるのです?」
「副団長っ!」
殿下が私より先に応えるも煽るように返す副団長。そして殿下が激昂するが…
「殿下」
私は殿下を止める。
「カーク…しか」「殿下」
殿下は何かを言葉にしようとするが、私は首を振りソレも制止する。
そして私は副団長に向かい…
「私はただ仕事で第三王子殿下をお載せしただけです…では失礼します殿下」
一言だけ言い、直ぐに殿下に向き直る。殿下に一礼しクルリと踵を返し、運転席へ戻「まあ待ちたまえ#元__・__#副団長殿…」
はぁ…やれやれ…。
私は嘆息しながら小さく頭を振り、副団長に向き直す。
「副団長殿…私は仕事がありますので、申し訳ありませんが失礼させていただきます」
「そんな固いことを言わず…どうだね?久しぶりに剣でも振っていかないか?」
厭らしい笑みを崩さず、そんな事を宣う副団長…。
そろそろ私も面倒くさくなってきたのだが…応えたのは殿下だった。
「副団長…カークは仕事だと言っているだろうっ!……まだカークに絡むと言うのなら…」
「殿下…何をお怒りになっているのです?私はただ、#元__・__#副団長殿に『剣を振っていってはどうか?』と『提案』しているだけ…。他意などありませんよ?」
「くっ…」
殿下…庇ってくれるのは大変嬉しいのですが、余計面倒くさいことになっていませんかね?
しかし、これは…
『王都騎士団"現"副団長ザークォ・フォン・コモーノ』
コモーノ伯爵家の長男で次期当主。性格は傲慢で貴族至上主義、格下の者に強く、平民には容赦のない、絵に書いたような悪徳貴族である。
そしてコモーノ伯爵は『貴族派』に属し、平民を多く重用する『国王派』に属する第三王子殿下の失墜を狙っている。
そんなところに平民の成り上がりである元上司の私が来たワケか…。
間接的には私が原因か…やはり面倒くさいな…。もう車に乗って帰って良いですかね?
とは言っても殿下のご厚意は無下には出来ませんね。ここは私にだけ敵意を向けさせる様にしましょうか…。
副団長…いや、ザークォを釣るのなんて、それこそ赤子の手を捻ることより簡単ですしね。
まぁ、家族には迷惑をかけてしまうかもしれませんが…。
覚悟を決め、私が…いや、"俺"が動こうとした時…。
「何を騒いでいる…」
静かに…だがはっきりと聞こえる威厳のある声がこの場に響く。
俺と殿下、そしてザークォが声のした方に顔を向ける。
そこには…
「「団長…」」
「だ、団長殿…」
王都騎士団の団長であり、『剣聖』の称号を持つ…
『エムリス・"ナイト"・ストランディア』
この国で最強の騎士が静かに立っていた…。
"俺"の名は『カーク・キーン』。
先日まで騎士団に所属していた、今はしがない『職業:運転手』なんだが…。
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今回のネタ①:『ザークォ』と『コモーノ』
今回のネタ②:未だに名前の出ない殿下…
タクシーと全く関係ない話に…。
次回もよろしくお願いします。