乗務8 運転手:カーク・キーン②
私の名は『カーク・キーン』。
先日まで騎士団に所属していた、今はしがない『職業:運転手』だ。
『配車』でスモールシダーの東門に着け、乗客を待つ。
しばらく待っていると白金のハーフプレートアーマーに身を包み、王都騎士団の紋章を中心に刺繍されたマントを翻しながら、金髪碧眼の若者が近付いてきた。
騎士だということは遠目にでも分かる出で立ちだが…
「っ!?」
私は驚きながらも冷静に運転席横のレバーを操作し、ドアを開ける。
『ガチャリ』
「すみません、お待たせしましたか?」
「いえ、先ほど到着したばかりなので、そんなに待っていませんよ……第三王子殿下…」
「っ!?」
私がそう言うと、殿下は少し驚いた顔でこちらを見る。
「…副団長…」
私は軽く笑いながら…
「ご無沙汰しております、殿下。あと私は今は副団長ではありませんよ」
「あっ、あぁ…そうでしたね、すみません…」
「行き先…」
「えっ!?」
「行き先は王城西側と聞いていますが本部ですか?宿舎ですか?」
「あっ、宿舎の方でお願いします…」
「畏まりました」
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走り始め三~四分程度でロップランド街道からミドフィル街道に入り、直ぐにラウルドブリッジを渡る。
走行中、それまで会話がなかったが…。
「カークさん…」
「はい?」
「騎士団に……戻っ」「殿下!」
私は殿下の言葉を遮り、車内前面の中央にある鏡越しに殿下にそれ以上は言わないように眼で語る。
「し、しかし…」
走行に気を付けながら、鏡越しに見る殿下は悔しそうな表情で…。
何かを言いかけては止め、顔を上げては下げ…を繰り返す。
「私はコレで良かったと思っていますよ」
「………………」
「面倒な政争に関わる事も無くなりましたし、何より…」
「何より?」
「家族との時間が取れるようになりましたので…」
どちらも私の本心である。ソレは間違いないのだ。だから…
「………そう…ですか…」
殿下には…そんな顔はしてほしくない。
「どちらかというと私の方が申し訳ないですね…」
「………?何故です?」
「あんな場所に殿下や部下たちを置いてきたのです。………で『今の方が良いな』と思ってしまっていますから」
そう言い、鏡越しに笑みを浮かべて見せた。
殿下もソレを見て私の心中を察したのでしょう、先ほどよりも表情にほんの少しですが余裕が出たように見えます。
「そう…ですね。置いていかれた私たちは散々ですよ…フフ…」
「でしょう?」
お互いに軽く笑いあい、車内に穏やかな空気が流れる。
「それよりも殿下…」
「はい?」
「私は今はもう一般人です」
「?そうですね」
「いつまで私に敬語を使うつもりです?」
「そんな…貴方はいつまでも私の先輩で先生で…」「で・ん・か」「…分かりまし…いや、分かった」
「フフ…」
「…はぁ、そのぐらい別に良いじゃないですか…」
ボソリ…と呟いた殿下の言葉は私には聞き取れませんでしたが、鏡越しに見えたその表情からはコレで良かったのだろうな…と、そう思う。
車はミドフィル街道から『K1』に入り順調に目的地まで向かう。
私は気持ち軽くなった足でアクセルを踏み込んだ。
私の名は『カーク・キーン』。
先日まで王都騎士団の副団長を務めていた、今はしがない『職業:運転手』だ。
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今回のネタ①:ミドフィル=『middle of a field』から
今回のネタ②:ラウルド=『ラウンド』+『チャイルド』から
何やらシリアスなお話に…。
次回もよろしくお願いします。