乗務7 運転手:カーク・キーン①
私の名は『カーク・キーン』。
先日まで王国の王都騎士団に所属していたのだが、体力の限界を感じ引退。
冒険者ギルドに勤めている友人の縁故と、私自身に『運転手』の適正もあり再就職。
旅客課のスモールシダー営業所に所属することになった。
勤務形態は隔日勤務。
週三日、月の日・水の日・金の日を勤務した翌週は、火の日・木の日・土の日を勤務。
都合月十二勤務になる。
一日の勤務時間は長いが休みも多いので、騎士団勤務の頃より大分余裕である。
……そう思うと騎士団は少しブラックか…。
お客さんを降ろしたあと、そんな事を思いつつ、スモールシダーへ戻ろうと私はアクセルを踏み込み『異世界タクシー』と呼ばれる車を走らせる。
『異世界タクシー』……不思議な乗り物だ…。
騎士団の頃に仕事で何度か利用した事はあるが、『運転手』になって"より"不思議だと思う。
『括り』としては召喚獣の類いらしいが、明らかに種類が違う。
通常の召喚獣ならば『テイム』やら『契約』やらが必要になるのだが、私は…いや、『運転手』はその過程を飛ばし『車』を召喚している。
この辺りの事は、専門家(魔法研究者、召喚魔法研究者)も既に匙をぶん投げている。
召喚している私たちも分からないのだ。他者が分かるはずはないだろう…。
走行…。
馬車の何倍もの速度で走っているにもかかわらず、揺れなどがほとんどなく走っている。
スライムよりは固く、衝撃を吸収する材質で出来ている『たいや』や車体への衝撃を抑える『さすぺんしょん』などの謎部品も未だに模倣出来ていないのだ。
その部品が模倣されれば、馬車なども何倍も快適になることだろう。
騎士団の時の遠征など、激しくしんどいのは言うまでもない………尻が…。
伝承ではこの『異世界タクシー』の表す『異世界』では『あすふぁると』という硬質の道を走っていたらしく、この国の街道のほとんどが土を固めただけ、大街道(国道)でも石畳、というような揺れて当たり前の道でも、揺れがほとんどない状態で走るのは『異世界タクシー』の初代の人物も驚いていた、らしい。
なので私も含め、『まぁ魔法だし…』と納得しているのが現状である。
おっと…そろそろスモールシダーが近くなってきた。
さて…東西南北のどれかの乗場に行くか、営業所で『べーす』待機するか、どうするかな…。
『ピピピー、ピピピー、ピピピー』
「おっと、配車か」
『ピ……東門…騎士団…王城西側』
「おや?騎士団か…知人の可能性が高いなぁ…」
私の名は『カーク・キーン』。
先日まで騎士団に所属していた、今はしがない『職業:運転手』だ。
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今回のネタ①:騎士団はちょっとブラック
今回のネタ②:日本との差異は『魔法』で…
元騎士のセカンドライフ。
次回もよろしくお願いします。