乗務6 運転手:ヨル・バーン①
俺の名は『ヨル・バーン』。
しがない『職業:運転手』で『冒険者ギルド運輸部旅客課』=通称『異世界タクシー』で働いているそこそこのベテランだ。
名前で分かる通り『ヒル・バーン』は俺の三つ上の兄である。
兄弟で『職業:運転手』だったからな…。兄貴も『運転手』になっているかもな…とは思っていたが…まさか職場が同じになるとは思ってもいなかった。
俺は若い頃は『冒険者』だった。適正職業ではないが、そこそこはやれたんだ。
だが怪我で余儀なく冒険者を引退。
そのまま『旅客課』に拾われて今に至るってワケだ…。
まあ今の『運転手』も悪くないからな…そこそこのベテラン、と自分でも言えるくらいには気に入ってはいる。
「おっと、お客さんだ。……酔っぱらってんなぁ、若い冒険者か…?」
そうぼやきながら、ドアを開け、手を上げていた乗客を乗せる。
「どちらまで?」
「う~ん……『グルーマウス』まで…」
「北側?南側?」
「…………北側…」
「北側ですね、畏まりました」
「………………」
返事がない。寝てしまったようだ。
グルーマウスだとそんなに時間かからないぞ?まぁいいけれど…。
シートベルトくらいはしてほしかった…。
俺はヤレヤレ…と思いつつもメーターを『実車』にし、アクセルを踏み、車を走らせた。
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『グルーマウス』に向けて『スモールシダー』の北門から『サウスラインロード』を北上…曲がるところもないので、このまま真っ直ぐ進めばそのうちに到着である。
もちろん大きな交差点では速度を落とし、ゆっくりと通過するが…。
「夜は馬車とか人はほとんど見えないからなぁ…」
そう…酔っぱらいを乗せている時点でお察しかと思うが、俺の勤務時間は『夜』である。
ちなみに兄貴は『昼』番なので、俺たち兄弟が仕事中に会うことはほとんどない。
当然、『夜番』の方が給料は良いのだが、そこはやはり客商売。昼とは違い、酔っぱらいが多いので面倒も多い。
なので俺は働く日を減らしている。俺は週四勤務、兄貴は週五勤務…だったかな?
月の給料としてはだいたい同じくらいらしい。まあ、それでも十分貰っているんだが…。
走っていると、グルーマウス方面からも『異世界タクシー』がまあまあ走ってきている。
この分なら、このお客さんを降ろしたあとも直ぐに次のお客さんを拾えそうだな…。
そんな事を思っているうちに無事『グルーマウス』に到着。
「お客さん、着きましたよ」
「………………」
返事がない。寝てしまっ…いや、ソレはさっきやったから。
仕方ない……俺は次に『ルームランプ』を点灯させ車内を明るくしてから先ほどよりも大きな声で…
「お客さんっ!着きましたよっ!」
『ビクッ』「っ!?」
…成功だ。
ここですかさず追撃。
「グルーマウスの北側…着きましたよ」
「…………う~~~…ん?」
まだ片目しか開いてないような状態でキョロキョロしたあとに『グルーマウス』だと気付いたようだ。
「あっ、あぁ~~…おいくらですかぁ…」
メーターは『2900』を表示している。
「銀貨二枚と銅貨9枚になります」
「…………ん~………金貨で良いですか…?」
「大丈夫ですよ…じゃあお釣り、銀貨七枚と銅貨一枚。………領収書は?」
「大丈夫………です」
「はい、ドア開けまぁす、お忘れ物ご注意ください。ありがとうございました」
お客さんを降ろし、ドアを閉める。
酔っぱらいだったが、まあまあ普通のお客さんだったな…と思いつつ、釣り銭を確認。
「もう一回、金貨出されても大丈夫か…」
そして『グルーマウス』北側の待機所を見る…
「やっぱ『金の日』はお客さんが多いね…」
俺は降車場所から待機所に車を動かし、並んでいる先頭のお客さんの前へ…
「お待たせしました、どうぞ」
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今回のネタ①:『溝』→『グルーヴ』→『グルー』 『マウス』→ネズミじゃない方
今回のネタ②:『ビクッ』「っ!?」キョロキョロ=ありがち
この世界は地球と同じように週七日。
陽の日→月の日→火の日→水の日→木の日→金の日→土の日→陽の日
になっています。
次回もよろしくお願いします。