乗務5 冒険者ギルド運輸部①
ストランド王国王都ストランドにある『冒険者ギルド本部』。
その一画に『異世界タクシー』を管理・運営している『運輸部』が存在している。
そして、この運輸部のトップが…
『国土交通大神』
…である。
そう…読んで字の如く、トップは『神様』なのである。
名目上、冒険者ギルドのトップにはギルドマスターがいるものの、実際の立場はどちらが上かお察しの通りである。
かといって別段偉そうにしているワケではないのだが…。
しかし一人…。
一人だけトップが『国土交通大神』がために不利益を被っている人物がいる。
そう…。
『運輸部副部長』である。
トップに当たる部長が神様であるがために、ギルドマスターも部下たちも気軽に仕事を振ることが出来ず、そのお鉢はほぼ全て、と言ってもいいほどに副部長である彼に回ってしまうのである。
そんな彼は、今日も頭と胃を痛ませてギルドの自分の席に着く。
「(………今日も部長(国土交通大神)は居ない…か…)」
チラリと部長の席を見て、一つ嘆息する。
偉そうにしない、仕事も言えばちゃんとしてくれる、部下にも優しい…そんな国土交通大神は『神』という立場を除けば理想の上司であり、副部長の彼からしてみれば居てくれた方が仕事が捗るため、是非居てほしい、かつ癒しの存在であった。
『神』である部長は、この運輸部に所属こそしているものの、その他にも兼任している。
本業はやはり『神』なので兼任先こそが運輸部ではあるのだが…。
「(まあ居ないものは仕方ない)……よし!朝礼始めるぞぉ!」
始業の時刻になったので運輸部のフロアに聞こえるように声を出す。
時を同じくして、本部(冒険者ギルド本部)でも朝礼が始まったようだ。
「(さて、今日も長い一日が始まるなぁ…)」
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「課長!あぁ、二人とも来てくれる?」
「「はい」」
副部長に呼ばれたのは『運送課』『旅客課』それぞれの課長。
返事のあと、直ぐに自分の机を離れ、副部長の机の前に並ぶ。
「これ、それぞれの先週の苦情一覧ね。支店長、運行管理者宛てに送信しておいてくれる?」
そう言い、それぞれに書類を渡す。
「「了解しました」」
「あと、今は何か問題ある?」
少しの間のあとに運送課長が応える。
「今のところは特にありませんが、来月は大型荷馬車の定期点検がありますので受注量を調整したいと…」
「もうそんな時期か…。分かった、ギルマスに一声掛けておこう。旅客課は?」
「…そうですね。来年契約終了の高齢の運転手が少し多いので再契約の検討をしているくらいですかね…」
「そうか…『職業:運転手』を持っていても若い者は運転手にならない者が多いからなぁ…分かった、部長に候補がいないか聞いておこう」
「よろしくお願いします」
二人を戻し、自身の机の引き出しから『旅客課~運転手~』のファイルを取り出し目を通す。
「(あぁ、確かに少し多いな…。この件もギルマスに伝えておこうか…)」
あわよくば依頼掲示板に貼り出して募集してもらおう、と考える副部長であった。
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今回のネタ:『大臣』ではない
『国土交通大神』…と使いたかっただけ。
次回もよろしくお願いします。