乗務30 『氾濫』⑥
そして始まる『#氾濫__スタンピード__#』二日目の第一陣…
…の一時間前…。
「………なんだカーク、お前は昨日言った通りに昼頃に来ると思っていたが…」
「だな。まさかエムリスと一緒に来るとはな…」
トードゥロ闘技場で朝から準備をしていた第一、第二騎士団長の二人が驚いた顔でカーク・キーンに言う。
王都騎士団長であるエムリスは早く来るだろう…と予想していたようだが、カークが早く来るのは予想外だったようである。
まあアレだけぶちぶちと愚痴りながら愚図っていたのだから、そう思われるのは当たり前でもある。
なので大方、エムリスに半ば無理矢理連れ出されたのだろう…直ぐ様そんな予想を立てた二人だったのだが…
「………………」
カーク・キーンは瞑目し、沈黙を貫く。
#ソレ__・__#で騎士団長の二人は察したのだろう、エムリスに向き直し問う。
「状況は…」
「芳しくない…か…」
エムリスは無言で頷いたあとに応える。
「良くはない。…過去の実績から見て、最悪から三番目の難易度…ってところだな…」
「だけど最悪ではない」
続くように別の声が言う。声のした方向に視線を移すとそこにはギルドマスター:イゴールと…
「ふむ、カーク・キーンもおるのか…。我を呼びつけるとは偉くなったもんだな?」
「っ!?俺が呼んだんじゃねえよ………魔王様」
少し皮肉混じりの挨拶をする魔王…。瞑っていた目を開き、苦笑で返すカーク・キーン。さらにエムリスとイゴールの二人を加えた四人を見て第一、第二騎士団長は思う。
「………『最悪』でもなんとかなるんじゃないか?」
「………私もそう思うよ」
「「………というか魔物が可哀想…」」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「………というワケで騎士団の増員は依頼してある。王にも許可はもらっている」
「高ランク冒険者も何名かは掴まえた。今日の戦闘には間に合わないだろうが、最終日の明日は大丈夫だろう」
魔王到着後に騎士団のテントには主要人物が集められ、情報の共有と作戦の変更・擦り合わせを行う。
概ね済んだところで二日目の第一陣開始時間となったので、第一・第二騎士団の団長と副団長、副ギルドマスターと一部の高ランク冒険者はテントを出て行った。
「では我とカーク、そしてエムリスは今日は待機ということで#良__よ__#いのだな?」
「そうですね。三人には力を温存してもらえると…」
魔王が口を開き、イゴールが応える。続けて魔王は…
「ふむ、承知した………が、カークよ」
「ん?」
「お前…大分鈍っておるな?」
「………ギクリ」
「はぁ…声に出して言うでない」
「いやいや、…全然大丈夫でしゅよ?」
噛み噛みで疑問形で、全然大丈夫じゃなかった。
魔王はヤレヤレ…と頭を振り、エムリスも両手の平を上に向けてジェスチャー。
「エムリス付き合ってもらおう、こ奴の勘を取り戻さんとな…」
「ああ、そうしよう」
「おいちょっと待てっ!今さっき待機ってことになっだろっ!?」
当然、待ったを入れるカーク。そしてカークにも味方がいた。
「いやいや、明日に影響が残ると困るんだが…」
ギルドマスター:イゴールである。ついさっき、決まったばかりの待機。ソレを覆そうというのだから当然ではある。
しかし…
「ふむ、問題ない。いざとなればエリクサーでも使う」
「…じゃあ、良いか…な」
ギルドマスター………あっさり陥落。
「決まりだな」
ニヤリ…と口角を上げ、悪い笑みを浮かべる魔王にイゴールもエムリスも何も言わない。いや、むしろ喜んで受け入れているようである。
「ほら逝くぞ、カーク」
ガシィッ…とカークの首根っこを掴み、テントの外へ出ようとするエムリス。
「おいちょっと待てエムリス!今『いく』の字が違っ!?くそぅ、謀ったなお前らっ!」
「黙れカーク、お前のためでもあるのだ。いいから車を用意せんか。あ、イゴールよ、支部の地下訓練所を使わせてもらう。一報要れておいてくれ」
「了解」
「『了解』じゃねえっ!くそぅイゴール、覚えとけよぉっ!!」
「ジタバタするなカーク。ほら行くぞ」
ズリズリ…とカークを引き摺ってテントから出るエムリスたちに魔王も続く。
ソレをイゴールは苦笑いで見送っていた…。
第一陣の戦闘が始まった頃、遠くからカークの悪足掻きしているような声が聞こえたような気がしたが、聞かなかったことにしようと思ったのは秘密のようである。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
今回のネタ①:『逝くぞ』=誤字ではない。
今回のネタ②:『謀ったな』=本当は「エムリス!謀ったなエムリス!」にしようと思った。
この作品はほとんどオッサンたちのみで成立してます。
次回もよろしくお願いします。




