乗務28 『氾濫』⑤
王都でスモールシダー所属の『運転手』カーク・キーンや王都騎士団長エムリス、冒険者ギルドのギルドマスターイゴール、さらに国土交通大神が動き始めた頃。
スモールシダー北部のトードゥロ闘技場で開さ…げふんげふん、発生中の『#氾濫__スタンピード__#』は第三陣の発生を終えて、第四陣…本日最後の発生を待っていた。
第三陣については、現れたのはウルフ系魔物とボア系魔物の混成軍。
ボア系のパワーよりウルフ系の速さの方が厄介なのだが、ウルフ系を騎士たちが、ボア系は#盾役__タンク__#が受持ち、など編成を工夫しつつ対応。
目立った被害もなく殲滅を完了していた。
ボア系に至っては猪肉をドロップしていたので、闘技場外ではソレに気付いた商人…料理人自らが嬉々として自前の包丁で戦闘まで行っていた。
彼らにはボア系魔物は食材にしか見えていないようである。
その後、屋台で猪肉料理がメニューに増えたのは言うまでもない。
料理人コワイ…。
ちなみに昼番で「そろそろ今日は終わるか…」と考えていたベテラン『運転手』ヒル・バーンは、お土産にするのだろう猪肉の串焼きを包んでもらっていたことをここに記しておこう。
そして臨時の仮設タクシー乗り場が、昼夜番入れ替わりのために一時的に台数が減り始めた頃…。
本日最後の『#氾濫__スタンピード__#』第四陣が始まる…。
現れたのはオーク。そしてその上位種の編成だ。
しかしこの第四陣は#違った__・__#。
第一陣から第三陣までの編成と違い、#下位職__・__#ではなく#上位職__・__#で編成されているのだ。
魔物の『種』や『職』など細かく数値では表せないが、『上位種』で『上位職』となると単純に考えても普通の種に比べて二段階強さのレベルが違うと考えて良いだろう。
例え…とは違うが、F級冒険者はD級冒険者に逆立ちしても勝てない。コレが近いだろうか…。
まあ、何事にも例外はあるが…。
さらにもう一つ…。
この第四陣…。
#ソレ__・__#を率いている魔物が存在していた。
『オークジェネラル』
単独でもそれなりに強い魔物なのだが厄介なのは『ジェネラルが率いている下位種・職に#能力向上__バフ__#が掛かる』こと。
…そしてソレが五体。
『#氾濫__スタンピード__#』初日の最後にしてはそこそこの強敵が五体も出現するのは、いつもの『#氾濫__スタンピード__#』からは考えられない現象なのだ。
「………これは…」
「ジェネラル…厄介だな…」
第四陣、ということでテントから出て闘技場内に来ていた第一、第二騎士団の団長が呟く。
「ジェネラルが五体…」
「まあ余裕だろう…」
同じく冒険者側も高ランク冒険者たちが様子を見るべく闘技場内に来ていた。まあ彼らにしてみればオークジェネラル五体など大したことはないのだろう。
「………外のE級、F級辺りは危ないんじゃないか?#能力向上__バフ__#掛かってんだろ?」
「まあ防衛大神の『祝福』があるから死にはしないだろうが…」
「まあ数が多いからちょっと面倒だが…とりあえずサクッとジェネラルから殺ろうか…」
「「「おうっ!!!」」」
一人の冒険者が言い、周りもソレに応える。合わせて騎士団の上位陣もそれぞれが抜刀し構えた。
そして舞台中央にいるオークジェネラルたちも『のそり…』と 動き出そうとした次の瞬間…
「『#獄炎__ヘルフレイム__#』」
『ゴオオォォォッ!!』
「あつっ!!」
「うぁちちちちぃっ!!」
その声が静かに、だが確実に聞こえたその時、舞台中央に紫色に輝く魔方陣が一瞬で描かれ、黒く巨大な炎が螺旋を描いて立ち#上__のぼ__#った。
ソレは全てを燃やし尽くす地獄の炎。ソレは魔方陣内にいた全てのオークたちを消し炭も残さない威力で放たれていた。
撃ち放ったのはもちろん…
「魔王様…」
「事前に言ってくれませんかね…」
「っぶねぇ、もう少しで突っ込むとこだったわぁ」
「ふっ…すまんな。調べ物があるから早く終わらせたかったのだ」
そう悪びれもせず言う魔王は片手にメニュー表やらスモールシダーの案内本などを抱えていた。
「しかしこれでジェネラルは倒したし、後は問題なかろう?先に失礼するが良いか?」
今、この場での実質的な指揮権は騎士団長が持っている。
魔王の問いに騎士団長たちは…
「そうですね…ジェネラルがいなくなれば#能力向上__バフ__#は解けますし…」
「あとは騎士団と他の冒険者たちで終わらせます」
魔王はソレを聞き小さく頷く。
「頼んだ…ではまた明日な」
そう言い、片手を上げながら闘技場内から出ていった魔王。
残った者たちは魔王を見送ったあと、ジェネラル以外の殲滅に乗り出す。
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『#氾濫__スタンピード__#』第四陣、オークの殲滅が完了し、初日は終了する。
何度も『#氾濫__スタンピード__#』に参戦している者なら、今回はどこか勝手が違うことに気付いたかもしれない。
だが結果だけを見れば…特に第四陣は魔王の一撃により楽になってしまった…ように感じただろう。
そして第四陣がオークだったこともあり、このあと闘技場外の屋台はさらに盛り上がりを見せる。
オーク種のドロップ品『オーク肉』。
それは日本でいう高級ブランド豚のような食材である。
それぞれの屋台はそれぞれの調理法で料理し、その上品な匂いを漂わせた。
商人の中には初日終了を狙って用意していたアルコール類の提供も始めていた。
冒険者たちも、見張りの当番ではない騎士たちもが群がり、これからがこの日一番の盛り上がりを見せる。
当番の騎士たちは肉を包んでもらっていたが、やはりアルコールは欲しかったのだろう、その顔に悔しさが滲んでいたのは言うまでもない。
こうしてスモールシダー北部トードゥロ闘技場での『#氾濫__スタンピード__#』初日は終わりを迎えた…。
いや、飲み始めた者たちはこれからが始まりなのかもしれない…。
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今回のネタ①:上位職=ソードマンとかシールダーとかナイトとか…。
今回のネタ②:ジェネラルと#能力向上__バフ__#=定番と言えば定番。
今回のネタ③:案内本=『スモールシダーウォーカー』みたいな…。
今回のネタ④:オーク肉=いろいろな部位をドロップ。ちなみにジェネラルはドロップごと消し炭に…。
タクシー要素が…。
次回もよろしくお願いします。




