乗務23 スモールシダー営業所②
「点呼を始めます。おはようございます」
「「「おはようございます」」」
スモールシダー営業所所長の声が響き、朝の点呼が始まる。
…と言っても八時の点呼なので『今日』の点呼は既に四回目なのだが…。
「ご存知の方もいるかも知れませんが『#氾濫__スタンピード__#』は明日の午後開始のようです」
『ザワリ…』とまだその情報を知らない運転手たちはどよめき、「やっぱりな…」と知っていた、もしくは聞いた運転手はそう呟くか頷くかする。
「スモールシダーもそうですが闘技場周辺も既にお祭りのような状態になっているのに輪をかけて、文字通りお祭り騒ぎになってくるでしょう」
「騎士団や冒険者の輸送も増えるのでウチの営業所も増員してますし、物資運搬のため輸送課の馬車や商人たちの馬車も増えてますので、事故にはいつも以上に注意して運転してください」
「それから日勤(昼番)の人、本番は明日からなので今日は気持ち早目に切り上げて体調を整えてください。隔勤(隔日勤務)の人はこまめに休憩を取って無理のないようにお願いします」
「では気を付けていってらっしゃっい」
「「「行ってきま~す」」」
所長が一通り注意事項を述べ、送り出す。運転手たちもパタパタと営業所から出て、それぞれが『タクシー』を召喚し始めていた。
所長は営業所の外に出て、全員が出払うのを確認してから所内に戻り、そこから所長室へ。
自身の机の上には各地…と言っても近場の騎士団や高ランク冒険者輸送の依頼書が山積みになっており、せっせと時間別に仕分けて行く。
仕分けた依頼書を配車室という『魔導配車システム』の置かれた部屋へ持っていき、オペレーターに依頼書を渡しながら指示を出しておく。
オペレーターも依頼書が異常に多いものの、やることは特段普段と変わらないのでそのまま受け取り、早い時間のモノから順にシステムに打ち込んでいく。
ここで打ち込んだモノは『タクシー』には『時間指定配車』として、指定時間の十分前に魔導無線機に飛ぶようになっている。
受けた運転手はタクシーを『迎車』にして迎えに行く、というシステムだ。
「所長ぉ…、『枠』結構いっぱいなんですけどぉ…」
「ああ、大丈夫大丈夫。今日も闘技場との往復ばっかりだから#一時__いっとき__#『空車』が無くても直ぐに空き出るから。…一応、予約多い時間はモニター確り見ておいてね」
「了解ぃ」
所長は配車室から出ようとするが、くるりと振り返り…
「昨日・一昨日と同じく、騎士団・冒険者関係の予約は優先でね。商業ギルド・商人関係は『枠』が無い旨伝えてね」
「「了解」」
民間により運営されている冒険者ギルドに所属する旅客課ではあるが『#氾濫__スタンピード__#』のような事態の場合は、当然ではあるが国の要請を優先する。
また冒険者ギルドからの要請は高ランクの冒険者が多いので、こちらも騎士団などと同じように優先。
利益目当てで動く商人たちには、この前日・前々日を含め、『#氾濫__スタンピード__#』開始から終息まではご遠慮いただいている。
輸送課については『#氾濫__スタンピード__#』のための物資運搬に限る、と条件付きで一部商人たちにも開放している。
事態が事態なだけに商人たちも御断りされても仕方がない、と納得している。
………まあ、中にはそれでも文句を言う者はいるが…。
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九時の点呼も終わり、運転手たちを送り出した後…。
営業所長は二つの物を両手に装備して営業所の外に出る。
そう…。
『#箒__ほうき__#』と『#塵取__ちりと__#』りである。
『サッサッサッ…』
営業所の前を掃除して綺麗にする。
特別、営業所長のする仕事ではないが、本人的には日課のようなモノらしい。
「…ふぅ。こんなもんかな…」
そう呟きながら『トントントン』と腰の辺りを叩く。
そして鮮やかな青が広がる空を見上げ…
「………明日か…」
そう溢した営業所長の表情は果たして不安を表していたのかどうかはわからない。
そして…
「………早く起きれるかな…」
ある意味、不安を表していたようだ…。
それは、いつもは七時半頃に出勤してくるのだが、『#氾濫__スタンピード__#』当日から終息までは不測の事態に備えて四時半に出勤するためである。
うん、三時間も早いとか…不安にもなる。コレはしょうがないのではないだろうか…。
この後、いつもより忙しいものの、スモールシダー営業所は特に問題なく一日が過ぎる。
そして営業所長だけが不安を抱え…
『#氾濫__スタンピード__#』当日を迎える…。
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今回のネタ①:『体調を整えて・こまめに休憩』=大事。
今回のネタ②:『枠』=台数決まってるから、少ない時は予約出来ません。
今回のネタ③:『モニター』=『MPS』により各車両の現在地・空車・迎車・賃走・休憩、など状態が分かる。
今回のネタ④:『三時間も早い』=不安です。
いよいよ『#氾濫__スタンピード__#』が…?
次回もよろしくお願いします。