務22 運転手:ヨル・バーン③
俺の名は『ヨル・バーン』。
『#氾濫__スタンピード__#』数日前に働いていたら、魔王様に絡まれている『職業:運転手』のそこそこベテランだ。
いや、まあ、魔王様は旧知の間柄だから"絡まれてる"は間違いか…と言うか嘘だ。
「ヨル…少し時間を作れ」
「絶賛仕事中なんですけど?」
「少しくらい良かろう?飲み物くらいは奢ってやる」
「………まったく…」
魔王様の命令?提案?に了承して直ぐ、闘技場に到着する。
俺は『はざーどらんぷ』を点滅させて車を停め、メーターを操作。
「とりあえずここで精算な…。魔王様、王族料金だからな」
「ふっ、分かっておる」
料金を貰い、領収書を発行して手渡す。
俺は続けて『スーパーサイン』を回送にして、メーター下部中央の休憩と書かれているボタンを押す。
ついでに無線も切っておこう、と通称『羽子板』も操作する。
「よし、コレでオーケー…と。んじゃ、行くか」
「ふっ、すまんな」
俺たちは車を降り、俺は車を送還する。
さて…飲み物だけじゃなくて食い物も奢ってもらおうかな。
闘技場周辺には『#氾濫__スタンピード__#』に対する騎士団や冒険者たちの準備だけではなく、多くの商人たちもやって来ている。
『商業ギルド』だけでなく、魔法薬を取り扱う『錬金ギルド』や普通の薬や包帯などを扱う『薬師ギルド』、武器防具の販売と修理を請け負う『鍛冶師ギルド』など、それぞれに所属する商人やら職人やらがこぞって集まって来るのだ。
騎士団などは国の支援が充実していそうなものだが、食事など配給だけでは騎士には足りないのだろう、多くの騎士たちが食べ物を扱う屋台を利用している。
そのためか、『#氾濫__スタンピード__#』時は儲かる!と『#氾濫__スタンピード__#』は回を重ねる毎に、その周辺に屋台が増えていき、今では大きなお祭り状態である。
商人たちとしてはこの機会を逃すか!と躍起になり、国としても経済が回るからなぁ…と黙認。
本来なら『#氾濫__スタンピード__#』は非常に危険なんだがなぁ…。
「昔と比べると本当に『#氾濫__スタンピード__#』は変わったな…。下手な祭りより大きい祭りではないか」
「モグモグ…だな。昔はもう少しモグモグ…静かだったよな」
俺は魔王様に奢ってもらった串焼きにかぶりつきながら応える。…美味いなコレ。
「あ、アレもモグモグ…美味そうだな」
「#他人__ひと__#の奢りだと思って遠慮せんなお前は…」
「気にするな」
「お前はもっと気にせい…」
いくつか屋台を周り、食べ物と飲み物を買った俺たち(金を出したのは魔王様だけだが)は、公園としても機能している闘技場周りの長椅子に腰掛けた。
「…で、ヨルよ…お前は『#氾濫__スタンピード__#』には参戦せんのか?」
「…しねえよ。引退してもう何年も経っているしな…」
「ふむ…怪我で引退、というのはどうせ嘘だろう?」
「何だよ、引退したの知ってるじゃねえか…。…ああ、嘘だよ」
だけどブランクもあるし当然衰えもある。今戦えたとしても果たして全盛期の何割"力"が出せるか…。
「お前ほどの強者が…もったいないのう」
「#止__よ__#してくれ。どちらにしても今じゃあ大して戦えん」
「引退も粗方、何処かの貴族とでも揉めたのだろう?」
「まあな。親子揃って舐めた真似してくれた馬鹿貴族でな。屋敷ごと吹き飛ばして泣かしたんだが…そうしたら寄親が出てきてなあ…」
違法の奴隷売買に密輸、賭博と悪事が出るわ出るわで…寄親の侯爵が出てきたと思ったら、その派閥全部が敵に回りやがったんだよなぁ。
「…で、貴族派閥ごと殲滅してやったんだよ」
「………その話、聞いたことがあるな。お前が原因だったのか…」
「幸い王族も冒険者ギルドもこっちの味方だったから良かったが…」
「下手をすれば国とギルドと全面戦争だったワケか…」
さすがに国やらギルドやらを相手取るのは非常に面倒くさい。騎士団や国軍、多数の冒険者を相手になどしていられない。
「まあ、そんなことになっていたら、トップをぶん殴って魔王様のところに転がりこんだりしていたかもな」
「お前な…。ふっ、しかしソレはソレで面白かったかもしれんな…」
「「………ぷっ」」
「くっくっくっ…」と二人で声を殺して笑い合う。さすがに大声を張り上げて笑うほど若くない。
「…で、毎度毎度参戦して、こっそり高レベルの魔物を倒して回ってたのか…。安全のためとはいえよくやるな…」
「今、我が穏やかに過ごせるのは、人類が…特に人種が頑張っているお陰でもあるからな」
人族至上主義…未だ残ってはいるものの、ソレもごく一部だけ。
大半は過去に召喚された異世界の勇者に潰されている。
「くっくっくっ…『汚物は消毒だぁっ!!』と言いながら、彼奴は楽しそうに貴族や教会の奴らを潰して回っていたな…」
「ソレは…ちょっと楽しそうだな」
「だろう?」
本来は世界の危機に喚ばれるべき勇者を、自身の利益のために喚んで潰されているんじゃ目も当てられないが…。
ま、自業自得だな。
「おっと…そろそろ休憩も終わりにしないと…」
「む…そうか、残念だ」
俺は魔王様に奢ってもらったすっかり冷めてしまったホットコーヒーを飲み干し…
「『#氾濫__スタンピード__#』終わって直ぐに帰らなくても大丈夫なんだろう?」
「…そうだな。しばらくはストランドを回ろうと思っているが…」
「なら、冒険者ギルド:スモールシダー支部に連絡してくれ。休みにするから酒でも…な」
「っ!?………ふっ、ヨル、もちろん、お前の奢りであろう?」
「割り勘だっ、割り勘っ!」
「じゃあ、また今度な」俺はそう言い、闘技場周りの道に出て、タクシーを召喚。
メーターを操作し、スーパーサインを『空車』にしたところで、入れ替えだろうか直ぐにお客さんが乗り込んできた。
俺の名は『ヨル・バーン』。
魔王様と『#氾濫__スタンピード__#』後に飲む約束をした、しがない『職業:運転手』だ。
だが今度飲む酒は美味そうだ。
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今回のネタ①:『はざーどらんぷ』=橙色の両側で光るアレ。
今回のネタ②:車を送還=路上駐車・駐車違反?知らない子ですね。
今回のネタ③:『汚物は消毒だぁっ!!』=テンプレ。
夜の公園のベンチでお話するオッサンのお話。
次回もよろしくお願いします。