乗務21 運転手:ヨル・バーン②
俺の名は『ヨル・バーン』。
冒険者から『職業:運転手』になった、今じゃあそこそこのベテランだ。
『#氾濫__スタンピード__#』まであと数日…といった今日は昨日・一昨日よりもタクシーの利用者が増えている。
あと数日…と言っても夜の見張りは確りと付けないと駄目だからな…。
『#氾濫__スタンピード__#』の為に闘技場周辺に準備した物資や人員を狙って、野盗や野良の魔物などが出てくるからな。
そんなワケで普通の利用客プラス闘技場に行く騎士や冒険者がひっきりなしに利用していくワケだ。
だが騎士さんに冒険者さんよ…。
もう少し装備は綺麗にしておいてくれ。アンタら降ろしたあと、たまに後部座席のシートが汚れているんだ。
魔力量が多いから然程問題はないが、いちいち車の出し入れするの面倒くさいんだよ…。
まあ、そんなワケでスモールシダー北部の闘技場とスモールシダーの北門の往復が多くなってるのだが…。
『ブロロロ…』
低い音を響かせて北門の乗り場に入ると、まだ利用者が並んでいるような状態。
雨でもないのに珍しい光景だが、『#氾濫__スタンピード__#』期間中だからな。明日・明後日も増えるだろうし、当日『#氾濫__スタンピード__#』がはじまったらもっと増えるだろう。
並んでいる利用者の先頭に目を向けると、薄褐色の肌に長い銀髪、尖った耳と頭から生えている数本の角…魔族の青年が待っていた。
ただでさえスモールシダー周辺では魔族はあまり見かけないのに、その青年は漆黒のローブを纏い、並んでいる利用者の中では長身も相まって、やたらと目立っていた。
『ガチャ…』
「お待たせしましたぁ、どうぞぉ」
乗り場の先頭に車を着けて、後部座席のドアを開ける。
内心、ドア枠というか車体上部に『#角__つの__#』がぶつかってしまわないか大丈夫かな?と思いつつ、ちゃんと乗り込むか確認のため、視線を後部座席へ…。
魔族の青年は角が上手く当たらないように乗り込んでいたので一安心。
実際、酔っ払いは頭をぶつけることもあるし、酔っ払ってなくてもぶつける人はいるしな。
そしてドアを閉める前…。
それほど明るくはないルームランプに照らされた魔族の青年の顔を見る…。
「………魔王様じゃん」
「む………なんだヨルではないか…」
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「とりあえず出すわ…」と行き先を聞き、乗り場から車を発進させる。
お客さんも待っているし、後ろから車も来ていたからな…。
「闘技場へ…」と魔王様も例に漏れず『#氾濫__スタンピード__#』のためにスモールシダーに訪れたようだ。
「魔王様も大変だな、『#氾濫__スタンピード__#』の#度__たんび__ #に…」
「なに…たかだか四年に一度だ。そのくらい、どうということはない…」
魔族の寿命は総じて長い。
ほとんどの魔族はエルフやドワーフと同程度。魔王様は魔力が高いからハイエルフとかと同じくらいか?…知らんけど…。
そんな魔王様から見れば、『四年に一度』なんて本当に大したことはないのだろう。
「………しかし」
「ん?」
「お前が『運転手』とはな…。ん?ということはヨル、お前『ニホン人』の血を退いているのか?」
「あれ?言わなかったっけ?」
「聞いておらんわ、まったく…」
「はは…すまんすまん」
車内のミラー越しに、ヤレヤレ…と#頭__かぶり__#を振るう魔王様を見て、少しほっこりとする。
「しかし、コレでお前の『強さ』に得心がいったわ。普通の人間に我の角を折れる者などいないからな…」
「いやぁ、あの頃は若かった…」
「お前ほどの強者はそうはおらん。どうだ?もう一戦?」
「止めてくれ、こちとらおじいちゃんに片足突っ込んでいるんだ、もう戦えねぇよ。それにあの時はあの後、俺がボコボコにされただけじゃねえか…」
「ふっ…そうか、残念だ…」
俺がげんなりして言うも、残念だ…とまったく残念そうに見えない魔王様。
「くっくっくっ…」と声を殺して笑うの止めてくれませんかね?
「魔王様、もう着きますよ」
「ぬ…そうか…」
トードゥロ闘技場はスモールシダー北門からは比較的近い。大中小ある闘技場の何処に行くかにもよるが徒歩で十五~二十分程度。車なら約五分といったところか…。
到着する旨を伝えると、魔王様は少し考える#素振__そぶ__#りを見せ、直ぐに口を開いた。
「ヨル…少し時間を作れ…」
俺の名は『ヨル・バーン』。
『ニホン人』の血を引く元冒険者で現『運転手』だ。
魔王様よ…俺は今、絶賛仕事中なんだが…。
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今回のネタ①:後部座席のシートが…=気を付けてください。
今回のネタ②:角、大丈夫かな…=気を付けてください。
さらっと魔王様登場。そしてヨルさんの過去が…?
次回もよろしくお願いします。




