乗務2 運転手:ヒル・バーン①
『ピピピー…ピピピー…ピピピー…』
「おっと…ムセン、ムセンと…」
そう呟きながら魔道具のムセン機=通称『ハゴイタ』に手を伸ばし『応答』と書かれたボタンを押し、音を止める。
『ピピピー…ピッ』
『時間指定配車デス…南門…サントーリ商会…港湾都市ヨーハマ』
音が止まったあと機械の声で、乗車場所、乗客名、行き先が流れ『配車』が確定する。
「『ヨーハマ』か………んじゃ、行きますかね」
俺は『メーター』という魔道具の『迎車』ボタンを押してから『サイドブレーキ』を外し、『ギア』を『パーキング』から『ドライブ』へ。
右足を『ブレーキ』から『アクセル』へ移し、ゆっくりと踏み込んでいくと『ブゥン…』と低い音を出しながら車=通称『異世界タクシー』が進み始める。
俺の名は『ヒル・バーン』。
この道四十年のベテランではあるが、しがない『運転手』だ。
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俺は『冒険者ギルド運輸部旅客課』、その内の『スモールシダー営業所』に所属している。
『王都ストランド』と『港湾都市ヨーハマ』の中間にある『スモールシダー』は、その便の良さから徐々に発達していき、現在では中継都市としてかなり大きい街になっている。
なので客には事欠かないのだが、給料は出来高制ではなく固定給なので、あまり関係はない。
俺の様な『職業:運転手』は特殊ではあるが希少という程ではない。
なので、全国各支店各営業所にそれなりに人数はいるが、なろうと思ってなれるモノでもないので、まぁ給料はそれなりに貰ってはいる。
とはいえ向き不向きも当然のようにあるのだが…。
まぁ俺には比較的向いていたのだろうと思う。面倒な書類仕事も無いし、魔獣や魔物との戦闘があるワケでもない。
……戦えないワケではないが…。
ソレはさておきお仕事である。
南門に到着すると乗客は予約時間よりも早くから待っていた様である。
俺は車を乗客の横に停め、シートの横にあるレバーを操作して左後ろのドアを開ける。
『ガチャ』
「お待たせしました」
乗客の乗車を確認し…
「ドア閉めます、よろしいですか?」
「あっ、大丈夫です」
「はい、閉めます」
再びレバーを操作しドアを閉める。
『バタン』
「あっ、念のためお名前いただけますか?」
『配車』の場合は乗客に名前の確認をする。
あまり多くはないものの、乗せ間違いを防ぐためだ。
基本ではあるが、しっかりと実践する。
「あっ、サントーリ商会です」
「はい、いつもありがとうございます。行き先はヨーハマで…」
「はい、ヨーハマの南門の方へ」
「ヨーハマの南門ですね、畏まりました」
「行き方はどうします?北側から行くかロップランド街道から行くか…距離はあまり変わらないとは思いますが…」
「ん~……いえ、ちょっと遠回りですが南に下ってからで…」
「南……了解しました。あっ、念のためシートベルトお願いします」
行き先の確認、行き方の確認、そしてシートベルトの着用を促す。
「では出しますね」
俺は『実車』ボタンを押し、アクセルを踏み込む。
車=通称『異世界タクシー』がゆっくりと進み始め、港湾都市ヨーハマを目指し動きだした。
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今回のネタ①:『シダー』は『杉』
今回のネタ②:『ロップ』は『綱→ロープ→ロップ』に変更
なんとなく何処かわかった人がいるかも?
次回もよろしくお願いします。